「プーチンはロシアを救ってなどいない」”圧倒的支持”は真実か? ロシア人の本音から見える「すべてが恐怖を基盤に成り立つ」生活
開戦から2年以上が経過したウクライナ戦争。この戦争の趨勢を見極めるには、ロシア・ウクライナ双方の国民の「意思」を、注意深く見定める必要があります。 2024年3月の大統領選で、得票率87%と「圧勝」したプーチン大統領。だが彼への支持率は、どこまで信用できる数字なのか? ロシア人の生の声と、プーチン氏の人生を追い、ロシアにおけるプーチン支持の実像に迫る。 *本記事は黒川信雄氏の著書『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。 ソ連崩壊にともなう社会システムの破綻、さらに、その後の無計画な市場経済化を受け、1990年代のロシアは経済、そして社会の両面で大きな混乱に陥った。欧米流の「民主主義」に強い希望を抱いていた市民らは、〝無秩序な社会〟を民主主義だととらえ、幻滅した。 ロシアのエリツィン大統領はそのような混乱を国民に詫び、1999年12月31日に大統領辞任を表明し、その場で後継に指名したのがプーチン氏だった。プーチン氏はロシアからの分離・離脱の動きを強めていたチェチェン共和国の武装勢力に対し徹底的な攻撃を加え、さらにメディア戦略を強化することで2000年3月の大統領選に圧勝。以後、ロシアの主要輸出品である原油価格の世界的な上昇を背景に経済が回り始め、プーチン氏は政権運営においても、その経済好転の恩恵を享受した。 病気がちだったエリツィン氏と異なり、若く、エネルギッシュなプーチン氏は就任当初から高い支持率を維持した。チェチェン共和国の武装勢力を、時には汚い罵り言葉も使いながら徹底的に叩き潰す姿勢を示すプーチン氏に国民は賛同した。欧米との対立も辞さず、大国ロシアの復活を目指すプーチン氏の姿に、ソ連時代に郷愁を感じるロシア人の多くが共感したのは事実だ。 しかし、大統領就任から20年以上が過ぎ、国内の独裁体制が強化され続けているにもかかわらず高水準を維持するプーチン氏への支持率は、どこまで信頼できるものなのだろうか。今回のウクライナ侵攻に、国民の多くが賛同しているという社会調査の結果も、いったいどれほどの根拠があるものなのだろうか。 ロシア国内で、同氏を支持する声が多数を占めていることは事実と感じるが、それは決して、自ら進んで積極的に支持しているものとは感じられない。特に、今後のロシアの将来を担う若い層においては、プーチン氏を強く支持する空気が感じられないということは、2014年からのモスクワ駐在時代から感じていた。 よく語られるように、プーチン氏は本当にロシアを1990年代の混乱から救ったのか? 同氏に対するロシア国内の高い支持率は、どれほど実態を伴うものなのか? そのような疑問への答えを見つけようと、海外に在住する数人の30~40代の一般のロシア人に、率直な意見を語ってもらった。海外在住者に絞ったのは、ロシア国内に在住する人々にこのような取材をすることは、その人たちに思わぬ危険を及ぼしかねないということと、国内にいながらでは、本音をすべて外国人に語るということは困難という認識があるからだった。 「海外在住者では、見方が偏っているのではないか」との疑問を持たれる方もいるかもしれないが、彼らはごく普通の一般人である。思っていることをありのままに語るという点で、彼らの意見には価値があると考えている。