真のエースへと成長したウインターカップ…八村塁が「バスケはすっごい、すっごい楽しいです」と言える理由
■決勝の大舞台で覚醒した2年生軍団
優勝インタビューで「楽しかった」と答えている八村だが、3年間楽しく練習してきたわけでも、簡単に3連覇できたわけでもない。チーム一丸となってさまざまな課題に取り組み、困難を乗り越えたからこそ、そこで得た達成感や充実感が「楽しい」という感情になったのだ。 実際のところ、どの代の優勝も一筋縄ではいかなかった。1年のときは4年ぶりの栄冠で、2年次はオール2年生で成し遂げ、3年次はどこのチームも「打倒明成、打倒八村」で向かってくる中で各自が対応力をつけてつかんだ優勝だった。その中で、とくに大変だったのは「2年生のウインターカップ」だと八村は言う。 八村が2年のときの明成は、3年生部員が一人しかいなかったため、2年生にもリーダーシップが求められた。八村と納見がU17ワールドカップに出場する代表選手だったこともあり、佐藤コーチは2人に対してとても厳しい要求をしている。八村は卒業時にこう振り返っている。 「高校時代に久夫先生から学んだのは、バスケの技術はもちろんですが、一番は『男になれ』と言われて心の面で大人になったことです。中学までの僕はサボリ癖があったんですけど、久夫先生に『エースの風格を持て』『苦しいときこそチームメートを助けろ』と毎日のように言われて練習していました。それで、心の面から変われたんです」 そうして、真のエースになるべく脱皮したのが2年のウインターカップ決勝の福大大濠戦だ。試合は接戦ながらも明成が追う展開で、シューターの三上侑希が徹底マークにあい、打てども、打てども当たりが来ない苦しい展開だった。 選手たちが打開しようともがいている姿に佐藤コーチは、「選手に任せようと決心した」と試合後に明かしている。極力タイムアウトの請求を我慢し、選手の自主性を引き出す。それは、八村塁という規格外の選手を預かる者として、成長させるための覚悟の采配だった。そこで迎えた大一番のシーンで、2年生軍団たちに『自立心』が芽生え『覚醒』していくのだ。 残り2分、八村が同点シュートを決めたあと大濠がタイムアウトを取る。このとき、明成ベンチではシュートを決めきれずにいた三上が、悔しさと申し訳ない気持ちから声を上げて泣き出していた。2年生チームゆえに精神的な脆さをのぞかせた涙だったが、一方で、自分で解決しようと戦っている最中でもあった。ここで八村が三上を抱き寄せて励ますと、他の選手たちも「いいから打て、打て!」「ここ勝負だぞ!」と声を掛けあう。まさにこのとき、若きチームが独り立ちするのである。そして、涙を振り払った三上は再び気合いを入れ、タイムアウト後に難しいタフショットを決めてみせるのだ。