氷で足を怪我するホッキョクグマたち、歩行困難にも、「こんなことは初めて」と先住民
肉球に最大30cmの氷塊や深い切り傷、新たな脅威か、最新報告
ホッキョクグマはワモンアザラシを狩るため、海氷を何キロも歩き、氷の割れ目や穴を探す。しかし、一部の地域で、氷がホッキョクグマの足を傷つけていることが明らかになった。北方に暮らす2つの集団が裂傷、脱毛、皮膚の潰瘍、そして、毛皮と主に足への着氷に苦しんでいるという報告が、10月22日付けで学術誌「Ecology」に発表された。ひどい2頭の例では、肉球に最大直径30センチの氷塊が着き、出血を伴う深い切り傷を負い、歩くのも困難な状態だった。 【関連写真】ホッキョクグマの足の大きな氷塊 論文の著者は、米ワシントン大学の生態学者クリスティン・ライドラ氏とカナダ、ヌナブト準州環境局の野生生物学者スティーブン・アトキンソン氏だ。 アトキンソン氏は2012年と2013年に行ったカナダとグリーランドに挟まれたケイン湾の調査で、ホッキョクグマの病変に初めて気付いた。アトキンソン氏はライドラ氏に画像を共有したが、これが広範な傾向の一部であることはまだ知らなかった。「どう考えたらよいのかわかりませんでした」とライドラ氏は振り返る。 その後、2018年から2022年にかけて実施した東グリーンランドの調査で、ライドラ氏は同じ傷を目にするようになった。論文ではその理由として気候変動を挙げており、ホッキョクグマにとって、新たな難題になる可能性があると懸念している。
脱毛と痛々しい足
一部のクマに見られる脱毛は、おそらく氷の塊が毛皮に絡まったせいだと考えられる。ただし、ライドラ氏によれば、それ自体は必ずしも珍しいことではない。 「ホッキョクグマは過酷な環境に暮らしており、体に氷がくっつくこともあります」 むしろ注目すべきはその状況だ。脱毛が見られたのはほとんど足だった。加えて、調査の対象となったホッキョクグマの多くが足に重傷を負っており、出血を伴う潰瘍も複数確認された。 クマたちは鎮静剤を投与されていたにもかかわらず、傷を軽く触ると、身じろぎすることもあったため、痛みがあったのではないかと研究チームは考えている。 足の裏に氷の塊が付いているクマを見たことは「とてもショックでした」とライドラ氏は述べている。 上空から見たとき、「何かがおかしいと思いました。うまく歩けないように見えたためです。地上に降りたとき、歩けなくて当然だとわかりました。彼らの足にくっついているものが見えましたから」 クマに鎮静剤を投与し、足を調べたところ、氷の塊は硬いことが判明した。金属製の道具で削り落とすのに30分かかった。 氷で何らかの傷を負っていたクマは比較的少ない。ケーン湾では32頭、東グリーンランドでは15頭だった。ただし、調査対象となったクマのそれぞれ52%と12%であり、ライドラ氏によれば、決して無視できる割合ではない。 科学者はもちろん、インタビューした先住民のハンターたちも、このような影響は指摘していなかった。 「ハンターたちが何を見てきたかを聞くことなく、これは新しい発見だと言いたくありませんでした」とライドラ氏は説明する。「ホッキョクグマを最もよく見ているのは、クマと共存するコミュニティーに暮らし、生活のために狩猟を行っている人々です。インタビューしたハンターのほとんどが、こんなことは初めてだと話していました」 ただし、多くのハンターが、犬ぞりの犬にも似たようなことがあり、ぬかるんだ状況では、足に氷がくっつき、痛みを伴うことがあると指摘している。 「氷の塊がくっついたホッキョクグマは北極圏の各地で観察されています。しかし最近は、氷の塊が大きくなり、影響がより深刻になっています」とカナダ、アルバータ大学の生態学者アンドリュー・デロシェール氏はナショナル ジオグラフィックに語った。 「寒いときに、泳ぐホッキョクグマの背中に氷が塊が付着するのはよくあることです。それと比べると、氷塊がホッキョクグマの足に着くのはずっと珍しく、通常とは異なるいくつかの条件が必要です」。なお、デロシェール氏は今回の研究に参加していない。