氷で足を怪我するホッキョクグマたち、歩行困難にも、「こんなことは初めて」と先住民
原因は北極圏の温暖化?
ライドラ氏とアトキンソン氏は、温暖化が何らかの役割を果たしていると考えている。論文では、ホッキョクグマのけがについて、いくつかの説を提示している。 ライドラ氏とアトキンソン氏はまず、北極圏の気温が上昇するにつれて、雪ではなく雨が降る割合が増えている点に注目した。シナリオの一つとして、降雨によって氷の表面が解け、ホッキョクグマが歩くと、足の裏で再び氷になると説明している。 また、温暖化によって表面の雪が解け、再び凍ると、硬い層ができる。クマが歩くとき、その硬い層を突き破り、切り傷を負うというのが2つ目の可能性だ。 3つ目のシナリオは、なぜ現時点では2つの集団のみが傷を負っているかの説明になる。 ライドラ氏によれば、東グリーンランドとケイン湾では春、多くのホッキョクグマが海岸に定着した広い氷、あるいは、氷河の河口で暮らしている。このような環境で温暖化が進むと、海氷は薄くなり、海水が染み込んで表面がぬかるんでくる。 南方に暮らすホッキョクグマは、(比較的)温かい水で氷の塊を洗い流せる。対して、これらのクマは、一般的により寒く乾燥した高緯度地域に暮らしているため、南方のクマのようにはなかなかいかない。 「ホッキョクグマは北極圏の生息環境によく適応しているため、雪が降るべきときに雨が降ったり、寒いはずのときに気温がプラスになったりと、氷がくっつくような状況を経験しているに違いありません」とポーラー・ベアーズ・インターナショナルの主席研究員ジョン・ホワイトマン氏は話す。 「この問題が研究した地域の複数のクマに影響を与えていたことは注目に値します」とホワイトマン氏は続ける。「このパターンに加えて、一部のクマは重傷を負い、自然治癒の可能性が低く、歩行が困難に見えたという観察結果から、氷の塊がホッキョクグマにとって、より広くて深刻な問題になりうることが示唆されます」 ただし、氷の塊はまだほかの地域では確認されていないため、ホッキョクグマの長期的な脅威になるかどうかは不確かだ。 「温暖化に伴い、北極圏は急速に変化しており、ホッキョクグマがどのように反応するかを研究者は注視しています」とカナダ、アルバータ大学のデロシェール氏は話す。 「ホッキョクグマの行動は驚きに満ちています。温暖化する北極圏で生き延びるすべを編み出したかのように見えることもありますが、氷の塊のような奇妙なものが現れ、誰一人として考えもしなかったような問題に直面していることが示唆されます」
文=Kieran Mulvaney/訳=米井香織