立憲民主党の代表選に立候補し、討論会に臨む（左から）野田佳彦氏、枝野幸男氏、泉健太氏、吉田晴美氏＝東京都千代田区で2024年9月7日、藤井達也撮影

　「最終的に原発をゼロにする目標を掲げ続けるべきだと思う方は手を挙げてください」。立憲民主党の代表選が告示された2024年9月7日、日本記者クラブで行われた討論会で、そんな記者の質問に挙手したのは枝野幸男前代表（60）、泉健太代表（50）、吉田晴美衆院議員（52）の3人で、野田佳彦元首相（67）は手を挙げなかった。これは何を意味しているのか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】 　「東京電力の柏崎刈羽原発7号機（新潟県）の再稼働を認めるか、少なくとも検討すべきだと思う方は挙手してください」。この記者の質問に挙手したのは、泉氏だけだった。立憲民主党の代表選には4人が立候補したが、原発をはじめとするエネルギー政策をめぐっては、温度差が見られた。 　自民党の総裁選は9月12日に告示される。自民党と立憲民主党の経済政策の中で、最も異なるのは、岸田政権が推進にかじを切った原発をめぐるエネルギー政策だろう。 　原発推進の自民党に対して、立憲民主党は党綱領に「原発ゼロ社会を一日も早く実現します」と明記している。ところが、総論は賛成でも各論になると、「原発ゼロ」をめぐる解釈や実現を目指す時間軸で4氏は異なるようだ。 　◇「原発に依存しない社会を実現する」 　野田氏は「最終的に原発をゼロにする目標を掲げ続けるべきか」という冒頭の問いかけに4氏で唯一、挙手しなかった。 　野田氏は「私が首相の時に2030年代後半までに原発ゼロを目指す、そのための政策を総動員するという決定をした。それは当時の政府内、党内のぎりぎりの一致点でまとめた内容だった」と、民主党政権時代を振り返った。 　「その後、デジタル需要などで電力需要は右肩上がりに伸びている。再生可能エネルギーに力を入れるのは当然だが、その普及を考えると、原発ゼロという目標を党として掲げているが、私は今回の公約では『再エネの普及も含めて、原発に依存しない社会を実現する』という表現にしている」と語った。 　野田氏は東電の原発事故後、全国の原発が全基停止した後、首相として再稼働を認める判断をしている。「これは現実的な対応だった。私は首相として極めて厳しい経験をしている。いろんな経験をしているので、理想を掲げながら、どうやって現実政策を進めるかという立場でいきたい」と、脱原発を慎重に進める考えを示した。 　◇柏崎刈羽原発の再稼働は？ 　4氏の中で唯一、東電の柏崎刈羽原発7号機の再稼働を認めるべきだと答えたのは泉氏だ。記者からは「原発ゼロを目指しながら、再稼働では脱原発が進まないのではないか」と、さらに質問が飛んだ。 　これに泉氏は「（脱原発は）確実に進む。原発は安全対策の審査、地元の合意、避難計画などを全部満たさなければ再稼働できない。しかし、すべてをクリアしたものは動かしてよいと思う」と述べた。 　泉氏は「立憲民主党は高い目標、高い理想を掲げる党でよい。しかし、掲げるだけでは何も変わらない。だから原発ゼロが先に来るのではなくて、再エネや蓄電に力を入れて、原発がなくてもよい社会を作らなくてはいけない」と、現実論を展開した。 　◇党綱領は変えるべきか？ 　原発について最も雄弁に語ったのは枝野氏だった。枝野氏は「私も（原発ゼロより）原発に依存しない社会を目指すと強調した方がよいと思う。再エネで日本は世界の水準から立ち遅れている。蓄電に水素の活用などを含めれば、国内で再エネを十分賄える。依存しない社会はすぐできる」と持論を語った。 　枝野氏は「既存原発の廃炉や使用済み核燃料の処理などに100年単位の時間がかかる。原発ゼロを目指すと言ってしまうと、明日にでもすべてが解決し、安全になるかのような誤解を与える。私はそこは気を付けるべきだと思う」と語った。 　野田内閣の経済産業相だった枝野氏は「当時、原発の再稼働を決めたのは私だ。あの時は電力需給が逼迫（ひっぱく）し、ブラックアウト（大停電）のリスクがあった」と振り返った。 　そして柏崎刈羽原発については「（電力需要から再稼働の）必要性をしっかりと考え、住民の理解や安全性も考えるべきだ。再稼働を一切認めないという立場ではないが、柏崎刈羽に今、必要性や住民合意があるのか」と疑問を呈した。 　討論会では泉氏が枝野氏に「枝野さんは原発ゼロを目標とする党綱領を変えてもよいと思っているのか」と質問する場面もあった。 　枝野氏は「明日にでも原発がすべてなくなるかのような誤解を招くという意味では、原発ゼロをできるだけ使わない方がよい。一方、綱領を変えたら、これはこれで『諦めたのか』というミスリードになる。綱領はこのまま、原発に依存しない社会を訴えていくべきだ」と答えた。 　吉田氏は「（原発ゼロを）できないと言っていたら、いつまでもできない。原発のない社会を目指すのは党是だ。新しい産業や日本初のイノベーションを生んでいくためにも教育は重要だ」などと述べた。 　原発や再エネなどエネルギー政策は立憲民主党と自民党で最も異なる経済政策のひとつだ。自民党の総裁選と立憲民主党の代表選で、両党の政策の違いが浮き彫りになるのは間違いない。選挙期間中、各候補の微妙な発言にも注目し、随時リポートしていきたい。