【ラグリパWest】成功のための変化。坂本洋道 [レッドハリケーンズ大阪/PR]
人は変化を嫌がる。ルーティンが安心できる。これは本能である。 野中翔平から<恒常性維持機能動物>という単語を教えてもらった。花園近鉄ライナーズの主将はまた読書家でもある。 坂本洋道(ひろみち)は、その嫌がる変化に挑み、個人的成功を引き寄せる。所属はレッドハリケーンズ大阪。もうひとつの浪速のリーグワンチームだ。今月26日で28歳の誕生日を迎える。野中のひとつ下である。 坂本は昨秋、174センチ、104キロの体をHOから左PRに移す。その結果、今季の全10試合に出場できた。ディビジョン2(二部)のレギュラーシーズンである。 10試合の内容は先発7、入替3だった。 「今、毎日が楽しいです。試合に出て、自分の視野が広がった気がしています」 坂本の細い目は喜びで線になる。 これまで、社会人で4季を過ごし、公式戦出場はわずかに1。昨年3月12日、43-26で勝利したWG昭島戦だった。入替出場のためピッチに立ったのは4分のみだった 「このままでは先はない、そう思いました」 コンバートの決断は自分自身でした。 「ひとり用のスクラムマシンにずっと当たって押していました。60キロの重りをつけたり、ポールにマシンを押し当てて、動かないようにしたりもしました。オフの時もですね」 左PRへの移動は副産物ももたらした。ラインアウトのスローイングがなくなる。 「うまく投げられず、トラウマレベルでした」 その原因は社会人でFLからHOに移り、経験が少なかったことだった。 リーグの公式ファンブックの坂本の項には書かれている。 <チーム随一の体の強さ、俊足、アジリティー。揃った> その力を満天下に示すことができた。 ただ、他者を圧倒してのポジション奪取ではない。シーズン当初、左PRの先発は髙井翔太だった。ケガをした。 「まだ自分にとっては、毎試合セレクションみたいなもんです」 帝京出身の年下のライバルは来月5月で24歳だ。若さがある。 日々勝負の中にいる坂本がラグビーを始めたのは小2だった。 「仲が良かった友だちがやっていました」 東京の昭島ラグビースクールに入る。 「人にぶつかれる上に、チームスポーツな部分も気に入りました」 中3までこのスクールに在籍した。 高校は国学院栃木を選ぶ。 「中3の時、田村煕(ひかる)さんが高3でした。強くなるころでした」 田村は今、浦安DのSOである。3年時の全国大会は91回(2011年度)。8強戦で準優勝する東海大仰星に12-24で敗れた。 坂本のポジション遍歴は高校から始まる。 「CTBは人が多いポジションでスキル的にも限界でした。強さを生かそうと思いました」 FLに上がる。 3年時に浅野良太がコーチで来る。 「ラインアウトでリフターは、空を見て腕を上げる、など細かいこと教わりました」 浅野はFW第3列として日本代表キャップ22を持つ。今は現役時代に籍を置いたGR東葛に戻り、チームディレクターをつとめる。 坂本は3年で右FLとしてレギュラーになった。最後の全国大会は94回。2回戦敗退だった。大分舞鶴に19-31だった。 大学は専修。当時の監督・村田亙(わたる)が誘ってくれた。坂本の2つ上の姉・愛里咲(ありさ)もラグビー選手。村田の教えを受けたこともあり、推薦してくれた。姉は浦安DのPR三宮累と結婚。二児を育てながら、女子チームのBrave Louve(ブレイブルーヴ)で選手を続けている。 専修では5年を過ごした。 「僕のいた経営学部のみ2年から3年に上がるのに60単位が必要でした」 1年時は公式戦出場0のため、リーグ規約により、残りの4年間の出場は問題なかった。5年時は5位だった。 その5年目、日本ラグビー協会が主催したトライアウトを受ける。今ではチームの親会社と言うべきNTTドコモが、「HO転向」を条件にOKを出してくれた。 坂本は社員選手であり、ドコモCS関西の大阪・梅田の本社で働いている。業務はドコモショップの支援業務などである。ラグビーのスケジュールは優先されている。 「いい環境で仕事とラグビーができて幸せです。キレイなグラウンドでジムも充実しています。体のケアもしっかりしています」 その坂本の個人的な好調さとは裏腹に、チームは10戦3勝7敗。勝ち点12の4位に沈む。シーズン当初の目標、一部との入替戦に出られる3位以上は確保できなかった。 チームは今月19日に始まる「4~6位順位決定戦」に回る。最下位になれば三部の3位チームと入替戦を戦うことになる。来季から二部のチーム数は増え、8チーム編成。三部の上位2チームは自動昇格する。 「目の前の勝負に勝つだけです。大阪に根づくためにラグビーをやっています。いい試合をしてつなげていかないといけません」 坂本は力強い。残り最大で4試合。そこでシーズンは終り、オフを迎える。その時には気兼ねなく趣味のドライブに浸りたい。 愛車はシボレー・カマロ。『トランスフォーマー』を見て憧れた。映画一作目はこの車がロボットに形を変え、悪に勝った。変化した坂本もこの赤いチームを守ってゆきたい。 (文:鎮 勝也)