親指スピーカーや鹿島OPSODIS、コンセント直挿しスピーカーまで。InterBEEで見つけた注目オーディオ
11月13日~15日の3日間、例年通り、幕張メッセでメディア総合イベントの「Inter BEE 2024」が開催された。出展社数1058社/団体で、来場者数は33,853名と、コロナ前に迫るところまで回復してきたようで、かなり活況を呈していた。 【この記事に関する別の画像を見る】 もちろん派手に盛り上がっているのは映像系・放送系のエリアだが、プロオーディオのエリアも1ホールと半分程度まで広がり、出展者数でみると100を超える規模となっていた。 筆者は13日と15日の2日間、会場に行き、このプロオーディオのエリアを中心に見て回ったのだが、その中で面白かったもの、気になったものなど、独断と偏見でいくつかピックアップして紹介していこう。 ■ 親指サイズからラインアレー型まで取り揃えた、イタリアK-ARRAYスピーカー 今回、個人的に一番面白いと思ったのは、まったく新しい製品ではないが、オーディオブレインズが展示していたイタリアK-ARRAYの小さな小さなスピーカー「Lyzard」シリーズだ。 中でも一番小さい「Lyzard-KZ1 I」は親指程度の大きさなのだが、Inter BEE会場にあった12帖程度の試聴室において、かなりの音をとどろかせていた。 さらに、このシリーズには同じスピーカーを縦に並べたラインアレータイプのものも複数あり、それらの試聴デモも行なわれていたが、かなりの音量が出せるのだ。 それぞれステレオの2つのスピーカーで鳴らしていたが、実際、部屋の中にいても、非常に立体感はあるし、音が割れて破綻するようなこともない。 小さいLyzard-KZ1 Iの場合、3.5Wの出力とのことだが、なぜこんなに小さいのに、これだけの音が出せているのか? 実は魔法を使っているわけでも、トリックを行なっているわけでもなく、これとセットで鳴らしているサブウーファーを使っていたのだ。 実際にはこのサブウーファーが500Hz程度まで担当しているとのことだったので、小さなスピーカーはおそらく、シャカシャカした音を出しているだけだったのだと思うが、それでも立体感というかステレオ感は十分出せていた。 用途としては、この小さいスピーカーを目立たせるわけではなく、逆に目立たせないためにこれを使うのだとか。つまり店舗やレストランなど、スピーカーの存在感をなくす目的での導入というわけだ。 普通のアナログのスピーカーではあるが、周波数特性の切り分けなどもあり、専用のアンプを使うことが前提となっている。 このアンプはアナログのバランス入力や3.5mmの入力のほか、TOSLINKの光入力、Bluetooth LE入力、USB入力、さらにはライセンスを入れることでイーサネットを経由したDante入力にも対応しているという。セットにすると50万円は軽く超えるようなので、やはり業務用途ということなのだと思うが、とても驚かされたデモだった。 ■ 150Hz以下の低音を吸収して聴こえなくするスイスPSI AUDIO「AVAA」 もう一つ驚いたのも、新しい製品ではなく、だいぶ以前からあるという装置。スイスのPSI AUDIOが出している「Active Velocity Acoustic Absorber」(AVAA)なるものだ。 会場には1m四方の箱が実験装置として置かれていたのだが、これを使うと150Hz以下の低音を吸収して聴こえなくするというのだ。 どういうことなのか? 箱の中を見ると、右に銀色の小さなスピーカーが入っている。ここから出る音の低音を左側にある装置で消す、というのだ。 それを司るのが、横に置かれたタブレットの周波数発生アプリ。ここでは80Hz、100Hz、200Hzそれぞれのサイン波を発生させるのだが、AVAAをオフの状態であれば、どの周波数もボーという低い音が聴こえる。ところが、この状態でAVAAをオンにすると、80Hzや100Hzの音が消えるのだ。 なんだ、そんなのマイクで音を検知して逆相を出してるだけじゃないの? と思ったのだが、そうではないらしい。 アプリ側で周波数を変更しても150Hz以下の音だけが聴こえるし、複数の周波数を重ねても低い音は聴こえない。発信する波形を矩形波やノコギリ波にすると、当然倍音成分が出てくるから、倍音成分のほうは聴こえるけれど、確かに重低音は響いていないのだ。 担当者に仕組みを聞くと、内蔵マイクの正面にある音響的な抵抗の圧力を計測し、トラスデューサーが余剰分を取り除いているとのこと。ただ、彼らもなぜこれが実現できているのか、よく分からないのだとか……。 機材としてはアナログ的に処理をするAVAA C20ものと、デジタル的に処理をするAVAA C214というものがあるが、どちらも同じことができ、C214のほうがよりパワフルに除去できるという。用途としてリスニングルームにおける15~160Hzの定在波を取り除くことでリスニング環境を大きく向上させること。価格はC20で55万円程度、C214で66万円程度とのことだ。 ■ 音が立体的に聴こえる、鹿島の幅30cmサウンドバー「OPSODIS 1」 続いて紹介するのは、鹿島建設のブース。「なぜゼネコンがプロオーディオのエリアに?」と思った人も多いとは思うが、これは同社が現在クラウドファンディングサイト・GREEN FUNDINGで支援を募っている「OPSODIS 1」の実演だ。ご存じの方も多いと思うが、OPSODIS 1は横幅約30cmというサウンドバーで、ここから非常に立体的に音が聴こえるという製品。 実際このブースの中に入って、音を再生してもらうと、確かにスピーカーは目の前にあるのに、音は宙に浮かび上がり、真横からも音が聴こえてくる。ソースはマルチチャンネルというわけではなく、ステレオ2chのものだが、普通にミックスされたものよりも、バイノーラル用に作られたもののほうが、より立体的に感じられる。 ASMR的なものなど、バイノーラルマイクでとらえた音もそうだし、Dolby Atmos用のコンテンツをバイノーラル化したステレオコンテンツも、普通のステレオよりも断然立体的に聴こえるのが面白いところ。 OPSODIS 1についてはAV Watchでも詳細レポートが上がってるので、そちらを参考にするといいが、先日取り上げたシーイヤーの「pavé」(パヴェ)とも非常に近い印象。並べて音を聴き比べたわけではないし、細かな音の違いなどは分からないが、感覚的にはそっくりだ。GREEND FUNDINGでのOPSODIS 1の価格は69,650円と、pavéと比較すると少し高めだが、どこがどう違うのかなど、可能であれば比べてみたいと思っている。 ■ 業務用オーディオネットワーク「Milan」に対応したRME新製品 技術的な面で気になったのが、シンタックスジャパンが展示していたRMEの新製品。 具体的には、1UラックタイプのAD/DAコンバーター/デジタル・パッチベイ・ルーターである「M-1620Pro」とPCI Expressオーディオインターフェイスの「HDSPe AoX-M」の2機種。そして、2機種に共通しているのが、MADIとともにMilanなるものに対応していることだ。 「Milanって何だ?」と思う方も多いと思うが、これは正確には「AVB/Milan」のことで、オーディオ、ビデオ、自動車、産業用機器などの分野で活躍する企業や専門家によって構成されるAVNUアライアンスによって策定された、メディア・ネットワーキングを構築するためのオープン規格だ。 ご存じの方も多いと思うが、AVBはDanteと同じようにLANを通じてオーディオをやりとりできると同時に、ビデオも含めたさまざまなデータのやりとりが可能だ。しかし幅広い基準があるため、接続するデバイス同士がAVB対応であったとしても、うまくつながらないケースが少なくない。 そうした中、Milan対応であれば、その接続を保証される。またLuminexの「Areno」というツールやd&b audiotechnikとL-Acousticsが共同開発した「Milan Manager」を利用することで、Milan接続間で自在にルーティングを切り替えることができるなど、自由度の高い運用ができるようになる。 今年2月にシンタックスジャパンがDante搭載製品の販売を終了したことが話題になったが、同社ではまさにDanteからMADIやMilanに舵を切った形だ。今後業界が、イーサネット上でオーディオのやりとりをするための規格をどのように扱っていくのか、どちらかが淘汰されるのか、それとも用途によってすみわけをしていくのかなど、注目していきたい。 ■ スピーカー再生と同じ音色や定位をヘッドフォンで再現する「UNIO PRM」 GenelecがInter BEEで初お披露目をしたのは、Genelecとして初となるヘッドフォン。といっても、単なるヘッドフォンを単体発売するわけではなく、「UNIO PRM」(Personal Reference Monitoring)というシステムになっている。 具体的には「9320A SAMリファレンス・コントローラー」とヘッドフォンのセット売りとなっており、Genelecのスピーカーシステムを使っているユーザーがオプションとして追加する形となる。 この9320Aはモニター・コントローラー、キャリブレーション・ツール、出力インターフェイス、GLMリモート、そしてヘッドフォンアンプの5つの機能を持ったデバイスで、これを使ってスピーカー出力かヘッドフォン出力かを切り替えて聴くことができるようになっている。 Inter BEE会場のGenelecのブースは事前予約制となっていて、予約した人だけが体験できる形となっており、少しだけ試聴させてもらったが、確かに非常にクリアで、解像度の高いサウンドでリスニングすることができた。 自分のHRTFに合わせて事前に調整することで、さらにリアルになるとのことだったが、7.1.4のスピーカーの音と聴き比べてみて、それに近い立体感が得られるのが面白いところ。今後、Genelecのヘッドフォンというものが、どのように進化していくのか期待するところだ。 ■ 天井設置できるコンセント直挿しスピーカー「Sound Rail」 先日、富士スピードウェイのウェルカムセンターに35台の無線スピーカーが導入された経緯などをレポートしたが、そこで使われたシステムが、仙台のベンチャー企業、ミューシグナルが開発した「ミュートラックス」だった。 ミュートラックスを使うことで、Wi-Fiで非圧縮のハイレゾサウンドを最大32chのマルチチャンネルで飛ばすことができる。しかも受信する子機間で完全な同期がとれるため音のズレは最大で1.2msec以内ということを実現している。 そのミューシグナルがInter BEEに出展し、新製品の発表を行なっていた。 ここで発表されていたのが、ダクトレールに設置可能な小型スピーカー「Sound Rail」なるもの。 富士スピードウェイでは、ミュートラックスの子機とヤマハのパッシブタイプの小型スピーカーをセットにしてダクトレールに取り付けていたが、これは子機とスピーカーを一体化してしまったものだ。つまり天井にダクトレールさえあれば、コンセントに挿して吊るすだけで、配線不要で、簡単にマルチチャンネルのオーディオ出力環境を構築できるというわけ。 気になったのは、このスピーカーが何なのか? ということ。 というのもミューシグナルの前身であるJSoundではフルデジタルスピーカー、OVOを開発し、大ヒットとなったが、その部品の製造が終了してしまったため、追加生産できない幻のスピーカーとなっている。 もし、それが復活するのであれば飛びつくユーザーも多そうだが、話を聞いたところ、今回のSound Rail搭載のスピーカーは通常のアナログスピーカーとのこと。音質にはかなりこだわって作っているが、これのデスクトップ版を発売する予定は現時点においてはないそうだ。もちろん、Wi-Fiで飛ばす技術もいいのだが、ぜひOVOの後継となる高品位なデスクトップ用スピーカーも作ってもらいたいところ。 ■ 192/32対応になったSSLの新オーディオインターフェース「SSL2 MKII」 最後に紹介するのは、SSLが先日発表したオーディオインターフェイス「SSL2 MKII」および「SSL2+ MKII」。 名前からも分かる通り従来からあったSSL2およびSSL2+というオーディオインターフェイスイスの後継製品。見た目は大きく変わっていないが、中身は大きく変わっており、従来機種が192kHz/24bitだったのに対し、新製品では192kHz/32bitとなっているのだ。 もっとも最近話題の32bit floatというわけではなく、固定小数点の32bit。つまりダイナミックレンジが無限大になったわけではなく、非常に解像度の高いオーディオインターフェイスになったわけだ。 また従来機種では+48Vのファンタム電源スイッチ、LINE/MICの切り替えスイッチ、ローカットの3つのスイッチがアナログだったのに対し、新機種では見た目は同じながらデジタルスイッチになったことで、切り替え時のノイズなどが発生しなくなったことも進化点のひとつ。 また、ヘッドフォン端子がフロントに来るとともに、ギター入力端子もフロントに来たことで、操作性が格段と上がっているのも大きなポイント。さらにリアはRCA端子が廃止され、すべてTRS出力になったことで、音質的にも向上させているという。 このSSL2 MKIIおよびSSL2+ MKIIに関しては、また近いうちに詳細にとりあげ、オーディオ性能などもチェックしていこうと思っている。 以上、膨大な数の製品、サービスが発表されている中、気になったものをほんの少しだけピックアップしてみた。機会があれば、SSLのオーディオインターフェイス以外にも詳細レポートができれば、と思っているところだ。
AV Watch,藤本健