【下山進=2050年のメディア第40回】トランプ当選でしぼむ プラットフォーマーへの反独占の気運
前回の「生成AIは新聞を殺すのか?」では、ニューヨーク・タイムズがOpenAI社を提訴したように、生成AIに自社の記事を剽窃されている日本の新聞社の中には、提訴をする社があるのではないか、と書いた。 一方で、2018年に日本でも、著作権法の第30条の4が新たにつけくわわり、米国から「フェアユース」の考え方が移植され、たとえ提訴したにしても、勝てるかどうかわからないという専門家の意見も紹介している。「フェアユース」は技術革新や社会課題の解決に役にたつのであれば、著作物を無断無償で利用できるという考えかただ。 前回、それでも、提訴する社があるのではないか、と考えたのには理由がある。 近年プラットフォーマーを野放図に放置しておくのはやめようという全世界的な動きがあるからだ。 たとえば米国では、独占禁止法の運用を司るFTC(連邦取引委員会)がMetaとアマゾンを提訴、司法省もグーグルの検索事業と広告事業に対して独占禁止法に違反しているとして提訴をしている。グーグルについては、1910年代にスタンダード・オイルという石油会社が34の新会社に分割されたように、分割論も出ていた。 そうした世界的潮流のなかで日本の公正取引委員会も、ニュースコンテンツに関するプラットフォーマーの扱いが公正かどうかの調査をし、様々な問題点を指摘したうえで「本報告書で指摘した行為を含め、ニュースプラットフォーム事業者に関する独占禁止法上問題となる具体的な案件に接した場合には、厳正・的確に対処する」(2023年9月21日)としていた。 こうしたプラットフォーマーに対する各国の厳しい対応があるので、訴訟は日本でもやる意味がある、そう思って前回のコラムを書いたのだ。 が、この前提条件がトランプの当選で崩れることになる。 ■バイデン政権下の反トラストの旗手 FTCでプラットフォーマーに対する訴訟を指揮したのは、バイデン政権下でFTCの委員長に32歳で抜擢されたリナ・カーンだ。リナ・カーンは、エール大学のロースクール時代の2017年に「アマゾンの反独占のパラドクス」という論文を書いて世に出た。