第三十四回 高橋由伸が石川雅規を苦手だった理由に隠された投球の本質/44歳左腕の2024年【月イチ連載】
「相手にいろいろ考えさせるピッチング」を極める
そして、高橋氏は次のように結論づける。 「一概には言えないけど、石川君のようなピッチャーの場合、いろいろ考えすぎると、かえって彼の術中にハマってしまうことになると思います。それは、経験のあるベテランほど、そうなりやすい。むしろ若い選手たちのように、何も考えずに来た球を打つというスタンスならば、130キロのストレートを打ち崩すことは難しいことじゃないのかもしれない」 この言葉を告げると、石川は大きくうなずいた。 「まさに、由伸さんの言う通りです。ファームの若手のように、“来た球を素直に打つ”というスタンスだったり、初対戦だったりした方が何も考えずに打てると思うんです。でも、僕の場合はそれではやっていけないから、バッターにいろいろ考えさせる必要がある。そのためにいろいろな球種をマスターしたり、投げる間合いを変えてみたり、いろいろ工夫して緩急を使う。こうして、バッターにいろいろ考えさせるように意識しています。それは、経験のあるベテラン選手が相手になるほど、効果があると思います」 まさに、高橋氏も同様のコメントを残している。 「石川君の場合は、ストレートも、スライダーも、シンカーも、一つの球種をそれぞれ3倍に感じさせるんです。ボールに強弱をつけたり、プレートの位置を変えたり、長く持ったり、クイックで投げてみたり、同じ球種でさまざまなバリエーションがある。何も考えずに打っていた頃はそうしたことも気にならなかったけど、ひとたび考え始めてからは、自分自身で勝手に難しく考えるようになって、ますます打てなくなっていきました」 そして、かつて渡米前に1年間だけ石川と対戦した松井秀喜氏、さらにヤクルトから巨人に移籍したアレックス・ラミレス氏について、高橋氏が解説する。 「松井さんの場合はいろいろ難しく考えることはせずにゾーンを意識していたと思います。仮に変化球を待っていてストレートがきても、130キロ台であれば対応できますから。だから、球種に関係なく、ゾーンで狙っていました。ラミレスも同じように、打てる確率の高いゾーンのボールをシンプルに待っていた印象がありますね。僕の場合も、何かきっかけになるヒットが一本でも打てていたら、石川君に対する印象も変わったと思うんですけど、その一本が打てないまま引退してしまいましたね(苦笑)」 最後に、今もなお現役を続ける石川に向けて、高橋氏がエールを送る。 「石川君のすごいところは大きな故障もなく、長い間第一線で投げ続けていること。長く続けるというのは、体力だけでもできないし、技術だけでもできない。周りから認められる能力や人柄も必要になってきます。当然、技術的には常にアップデートを繰り返し、最新のトレーニングや食事理論なども採り入れているはずです。これまで通りのスタンスで、一日でも長く現役を続けてほしい。それが、僕の率直な思いです」 球史に残る好打者からのエールを受け、石川雅規は23年目の夏に臨む。「由伸さんの言葉はとても励みになる」と、今日も酷暑の中で黙々と投げ続けている――。 (第三十五回に続く) 写真=BBM
週刊ベースボール