第三十四回 高橋由伸が石川雅規を苦手だった理由に隠された投球の本質/44歳左腕の2024年【月イチ連載】
2007年シーズン途中にマスターしたシュートが突破口に
この言葉を石川に告げると、その表情が明るくなった。 「由伸さんに関しては、初めの頃はめちゃくちゃ打たれていた印象なんですけど、ある時期からちゃんと抑えられるようになってきた。……いや、“抑える”というよりは、“ようやく勝負できるようになった”という感覚ですね」 両者の感想は符合した。問題はその時期である。石川が続ける。 「そのきっかけとなったのは2007年のシーズン途中です。それまでずっと、古田(古田敦也)さんから、“シュートをマスターしろ”と言われていたんですけど、この年はなかなか勝てずにファームにいる間にシュートの練習をして、一軍復帰後に巨人戦で初完封しました。結局、この年は4勝に終わるんですけど、それでもシーズン終盤には翌年に向けての手応えをつかんでいましたね」 記録を見ると、石川がプロ初完封勝利を記録したのは同年9月13日、神宮球場で行われた対巨人23回戦となっている。高橋氏が口にした「2010年頃だったのか、その1~2年後だったのか」とは、数年の隔たりがある。石川が続ける。 「……この頃からようやくジャイアンツ相手に、互角に勝負できるようになってきましたね。当時のジャイアンツには由伸さんだけじゃなくて、阿部(阿部慎之助)さんもいたし、中日には福留(福留孝介)さん、立浪(立浪和義)さん、阪神には金本(金本知憲)さんなど、いい左バッターが多かったんですけど、左バッターのインコースのシュートは効果的でした」 高橋氏が指摘した「真ん中低めのシンカー」について尋ねた。 「シンカーは速いだけでも、遅いだけでもダメだと思ったので、2種類のシンカーを投げられるというのは自分のストロングポイントだと思います。ただ、由伸さんが言っているシンカーのことは記憶にないです。でも、結果的にいろいろと考えすぎたことによって、さらに迷いが大きくなるというのは、僕が目指してきたスタイルだし、“自分が取り組んできたことは間違っていなかったんだな”って自信になりますね」 さらに、高橋氏はこんな言葉も残している。 「ファームで調整していたときに、たまたま石川君もファームにいました。このとき、二軍戦で彼が先発したんですけど、ジャイアンツの若手選手が石川君を滅多打ちにしていて、“こいつらすごいな”って感じたことがありました。石川君自身、何か目的があって、普段とは違うピッチングをしていたのかもしれないけど、それにしても、あんなに打たれている姿を見て、本当にびっくりしました」