中国で激増する「無敵の人」の闇。相次ぐ無差別殺傷事件のウラにはいったい何が?
■友人がいないだけで犯罪者予備軍に? 一連の事件を受けて、中国政府はどのような対策を取っているのか? 前出の高口氏が語る。 「習近平氏が今の中国社会の暗い雰囲気をわかっているかは微妙なところですが、事件を受けて『対策をしろ』とは言っています。上へのお伺いが絶対の中国では、地方官僚が自分の自治体で絶対に事件を起こさせないために過剰な対策を取ります。つまり、市民への監視がいっそう強化されることになるでしょう。 その一例として最近メディアで話題になっているのが、『八失人員』に区分される人への監視です。これは、人生の挫折経験や交友関係の欠如など、中国政府が定めた犯罪をする人が持っているとされる8個の特徴のことです。各自治体がこのような要素を満たす住民をリストアップして、巡視員が定期的に家を訪ねるようになっているそうです。 友人がいないなんてのは個人の自由ですのでほっといてくれよとも思いますが、事件が起きて責任を取りたくない地方自治体はなんとしてでも監視を強めようとします。 ただ、監視を強めても弱者救済のためのセーフティネットが整備されるわけではないので、事件が多発する根本的な原因は取り除けないのではないかと思います。弱者救済の仕組みが整わない限り、『無敵の人』による事件は止められないでしょう」 前出のM氏も、以下のように語る。 「ゼロリスク志向が強い中国では、コロナ禍の感染対策が非常に厳しかったです。当時は理不尽な行動制限も多かったですが、私はコロナ禍で強まった監視体制が今度は犯罪者予備軍への監視に転用されるのではないかと思います。 コロナ禍で感染の疑いがある人にしたように犯罪者予備軍に認定された人に外出制限を強いることも容易にできるわけで、『無敵の人』への対策が非常に厳しいものになることが想像できます。暗い話ですが、これが今の中国社会の現状です」 中国の「無敵の人」問題は日本も人ごとではない。原因を見定め、新たな「無敵の人」を生み出さないことが重要だ。 写真/共同通信社