中国で激増する「無敵の人」の闇。相次ぐ無差別殺傷事件のウラにはいったい何が?
■行きすぎた監視が「無敵の人」を生む 中国といえば、街中で多くの監視カメラが堂々と設置されるほどセキュリティに力を入れている国だ。そのような監視体制は、無差別殺傷事件の対策にならないのか? 前出の高口氏が語る。 「中国の厳しい監視体制は、確かに国民が主観的に感じる『体感治安』を向上させました。犯罪者を捕まえるスピードが速くなりましたし、一定の抑止力としては機能しているでしょう。 ただ、いわゆる『無敵の人』のようなすでに覚悟が決まっている人に対して、監視体制がどれだけの抑止力になっているかは疑問が残ります。 中国では地下鉄に乗るときにも荷物検査があるほど厳しい監視体制が敷かれていますが、本気で計画を練って人を襲おうとしている人にそれらの監視がどれだけ有効なのかは皆が疑問に思っています。 さらに、習近平政権下においてインターネット上で強まった監視体制は、犯罪の抑止につながっていないのではないか。むしろ『無敵の人』のように社会から孤立する人を増やしているのではないかと私は思います」 それはなぜ? 「順を追って話すと、中国は2000年代の胡錦濤政権下で最も高いGDP成長率を記録しました。ただ、その間も国民の間で社会不安はものすごく増殖していて、『国は豊かになったのに俺たちは貧しくなっている』という声が強かったんです。 習近平体制になってからその状況を変えようという流れになり、ネット上で中国社会への不満の声を少し漏らすだけでその投稿が削除されたり、近くの派出所に呼ばれて説教されるようになりました。 ただ、この監視の締めつけは成功しすぎた部分もあって、胡錦濤政権下では社会に不満を持った人がネットに書き込んで周りに助けを求めていたのが、今はまったくできなくなってしまったんです。そうなると、弱音を吐けずに追い詰められる人が増えてしまっているのではないかと私は考えています」 前出のM氏は、ネットでの監視体制の強化は日本人を狙った犯罪が増えていることとも関係があると語る。 「ネットへの監視が強まって以降も、日本人学校への陰謀論めいた批判の投稿は削除されていません。自国の政権批判の動画は削除するのにそのような動画は残すとなると、実質的には中国政府が日本への批判にゴーサインを出していることになります。 すると反日をあおる動画がネット上でよく出回るようになり、社会不安のはけ口として日本人を狙う犯罪が増えました。 ただでさえ中国で無差別の殺傷事件が増えているのに、中国在住の日本人にとっては日本人であるという理由で襲われる可能性も加わって、身を危険にさらすリスクがより大きくなります。 そのため日本人学校に子供を通わせている親は非常に神経をとがらせていますし、駐在員の方でも家族を日本に残して中国で働く人が増えています。本当に襲われる確率は低いといっても、人の親なら自分の子供をそのような状況下には置きたくないでしょう」