【サウジアラビアRC】アルレッキーノはじめ有力どころに“死角”あり…不安を蹴散らし世代の主役候補に躍り出るのは?
理想は無敗で重賞突破
GⅢに昇格したのは2016年。以後8回の勝ち馬のうち、後のGⅠ馬は4頭。このうち3頭は朝日FSを勝った。残る1頭、グランアレグリアも牝馬ながら朝日杯FSに挑戦して3着。翌年に桜花賞を勝った。つまり、すべてマイルGⅠ馬だ。 【スプリンターズS2024 推奨馬】複勝率100%の条件満たす!能力はスプリント界屈指 SPAIA編集部の推奨馬を紹介(SPAIA) 持続力と瞬発力、どちらも問われる東京マイルは2歳馬の未来を占うにはこの上ない舞台。もちろん、半分はそうなっておらず、勝てばGⅠ馬というほど甘くはない。だが、朝日杯FSを展望し、その先の勢力図を描くためには欠かすことができないレースだ。今回はGⅢ昇格後の8年分データを使用する。 2歳世代のうち、早期にデビューし、勝ち上がった好素材が集うレースとあって、1番人気【3-3-1-1】勝率37.5%、複勝率87.5%など勝ち馬はすべて3番人気以内。東京マイルの実力勝負で波乱は考えにくい。 とはいえ、このレースは頭数がそろわない。この8年で18頭立ては2017年の1回だけ。残りは10頭以下ばかりだ。21年7頭立てなど少頭数が目立ち、そもそも人気薄は少ない。ちなみに、この年は1~7着まで人気通りに決まった。 2歳秋の入り口とあって、キャリア1戦【7-6-3-11】勝率25.9%、複勝率59.3%と1戦1勝馬が圧倒的。狙うは2連勝の重賞制覇だ。クラシック出走を早々に決め、じっくり馬の成長を促しつつ、ローテーションを練られる。この時期の最優先事項でもある賞金加算を目論む陣営にとって、このレースの意味は大きい。
アルレッキーノに気になるデータ
ただし、今年の最有力は2戦1勝のアルレッキーノ。6月の新馬で敗れ、新潟の未勝利を勝った。たった1回寄り道しただけだが、キャリア2戦は【1-1-3-22】勝率3.7%、複勝率18.5%まで落ちる。素直に当てはめていいのか。検証してみよう。 まずは王道ローテの新馬組について先に検証する。新馬戦の人気をみると、1番人気【4-3-2-4】勝率30.8%、複勝率69.2%。2番人気も【3-1-0-2】勝率50.0%、複勝率66.7%と上位人気で新馬戦を勝った馬が頭数を考えると、一歩リードする。新馬から人気になる好素材であれば、ここを突破する絵がみえてくる。 次はローテーション。夏競馬期間にあたる中4~8週は【1-3-1-3】勝率12.5%、複勝率62.5%。それよりも早い時期にデビューした中9~24週【6-2-2-4】勝率42.9%、複勝率71.4%が目安になる。 特に新馬戦開始当初の早期デビュー組はレース後、暑い夏を休養に充て、じっくりリフレッシュしたあとであり、成績もいい。この2点を満たすのはアルテヴェローチェと中4週のフードマンの2頭だ。 アルテヴェローチェは母の母がクルソラで、近親にはピオネロ、クルミナル、ククナなどがいる。クルミナルは桜花賞2着、オークス3着、ククナはアルテミスS2着と2~3歳戦でそこそこ結果を残している。反面、突き抜けることはできておらず、血統面のもどかしさは父モーリスも含め、悩ましいところ。一発で理想のローテに乗れるだろうか。 フードマンは父キングマンの外国産馬だ。シュネルマイスターのイメージが強い種牡馬で、JRAの新馬戦は9/22終了時点で10勝。勝率43.5%と高い。勝ち星は1200~2000mと、距離の守備範囲が広い万能型。ただし、距離延長時は【2-2-5-27】勝率5.6%、複勝率25.0%とイマイチ。短縮に強く、フードマンも前走が芝1400mだった点は気になるところ。まして新馬当日は重馬場。東京の開幕週で距離延長+高速決着だと不安もある。 データで浮上した1戦1勝馬に血統面の不安ありとみるなら、やはりアルレッキーノか。とはいえ、狭き門の前走未勝利のなかでも、前走逃げた馬は【0-0-0-3】となっている。 確かにアルレッキーノは未勝利で逃げ、2着ツインピークスに7馬身差と圧倒した。とはいえ、そのツインピークスは次走以降6、7着と敗れ、未だ未勝利。額面通りには受けとれない。豊かなスピードの証ではありつつも、重賞、それも東京芝1600mとなれば、前走ほど圧倒はできないのではないか。 だが、姉チェルヴィニアも似た戦歴から3戦目にアルテミスSを勝っているため、血統のあと押しはある。できればチェルヴィニアのように未勝利では控えて番手から競馬をしてほしかった。先頭、2番手の違いは些細に映るが、マイペースと相手に合わせて折り合うのはニュアンスが違う。アルレッキーノは賞金加算という結果と同時に、内容も問われる。 検討した結果、有力どころに不安な要素がみられる。だが、そんな不安を吹き飛ばしてこそ、真の主役だ。はたして、来年春にかけ、この世代をけん引する存在はあらわれるか。楽しみなレースだ。 ライタープロフィール 勝木 淳 競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
勝木 淳