<映画ドラえもん のび太の地球交響楽>「ドラえもん」で“音楽”を描く挑戦 のび太の「の」の音の誕生秘話 今井一暁監督に聞く
今井監督は、「音楽を“武器”にして戦うのは、音楽の本質と外れてしまう」と語る。
「そこは難しかったですね。音楽の力で敵をやっつけちゃうみたいな話にしてしまうと、音楽の本質とは違うものになってしまうので、どうそうせずに、ハラハラわくわくの大冒険になるんだろうか?と。その苦肉の策としてノイズという存在を登場させました。音楽が光だとしたら、その反対に闇の存在があるんじゃないか。音楽自体もひょっとしたら宇宙に源があって……とか、そうするとSFっぽくなってくるじゃないですか(笑い)。そんなふうに想像を膨らませながら作っていきました」
◇楽器が奏でる生音にこだわり 唯一無二ののび太の「の」の音
「音楽」がテーマということで、やはり“音”の面でもこだわった。今井監督は、これまでの作品とは音響面で「本当に違うと思います」と語る。
「音響のスタッフの方々が本当にこだわっていて、一つ一つの音が唯一無二の生音というか、楽器から出る生音なんです。僕にとっては初めてだったのですが、ドルビーアトモスの映画館で一つ一つの音がしっかりと聞こえるような音作りをしています。テレビやスマホからでは絶対に再現できないような、そういうものになっているかなと思いますね」
さまざまな音が奏でられる今作の中でも印象的なのが、のび太の「の」の音だ。リコーダーが苦手なのび太は、音楽の授業でヘンテコな音を出してしまい、ジャイアンやスネ夫に「のんびりのんきなのび太の『の』の音」とバカにされてしまう。しかし、この「の」の音が作中で重要な役割を果たすことになる。どのようにして「の」の音は生まれたのだろうか。
「『の』の音は、本当にずっと懸案事項でした。『のび太が出す変な音』と文字で書くのは簡単じゃないですか(笑い)。でも、今回の話では、その音がキーになる。一体どんな音であればいいのだろう?と、スタッフの間でも二転三転したのですが、最終的には音響監督の方が“音を作る”ことになりました。下のパーツを取り除いたリコーダーを水槽に近づけて、ちょっと吹くと、煽るような不思議な音がするんです。水につける角度によって音が違うので、ああでもないこうでもないと一生懸命やってくださって。その音響監督の方しか出せない音なんですよ。やはりみんなが『のび太にしか出せない音なのだから、ありきたりな音ではダメだ』『この音は機械じゃだめだ』とすごくこだわってくれて、本当に面白い音になりました。ほかにも、一つ一つの効果音も面白い作り方をしているので、作品の魅力の一つとなっていると思います」