スキマバイトが「グレーな制度」と批判される理由。業界が直面する重大リスク
テクノロジーが可能にした「スポットワーク」
日雇いは禁止されているのに、なぜスポットワークだとOKなのか? それは「就業先で直接雇用する職業紹介は問題ない」という見解が行政から示されたためです。 ただ、利用企業側からすると日々紹介は直接雇用しなければならないため給与支払いや労働条件通知書発行といった労務管理の手間が発生する点において、日雇い派遣より手間のかかるサービスでした。そこに大きな変化をもたらしたのが、テクノロジーの発展と新たな行政見解です。 スマートフォンが生活必需品として生き渡る中で、ウーバーイーツなどのギグワークも広がり、アプリを通じた求人のマッチングの利便性が企業にも働き手にも認識されていきました。 一方、これまで紙での取り交わしが必須だった労働条件通知書の電子化や、給与支払い代行を容認する見解などが行政から示され、労務管理にかかる企業の手間も大きく軽減。アプリや給与支払い代行などをセットにした日々紹介、つまり現在のスポットワークが爆発的に広がっていくことになったのです。
根本的な「パンドラの箱」とは?
さらに、スポットワークはより根本的な“パンドラの箱”を抱えています。それは日雇い派遣から日々紹介へと移行したころから、学識者を含む人材サービス業界内外で指摘されてきた「労働者供給」につながりかねないという懸念です。 雇用関係がないにも関わらず、日々繰り返し仕事を紹介するスポットワーク事業者と働き手との間に見えない影響力が生じて支配従属関係が構築されてしまうと、スポットワーカーの意思を無視した強制労働などにつながるリスクがあります。 例えば、働き手に不利な条件の仕事をめぐってスポットワークの事業者側が「この仕事を受けなければ評価を下げる」などと、仕組みを悪用するような不当に強い影響力を持ってしまいかねません。 現状では上記のような「労働者供給」にあたる顕著な事例は問題になっていないようですが、スポットワーク事業者とスポットワーカーにこうした主従関係ができてしまう状況こそが、問題と言えます。 これまでのところ、スポットワーク事業者は慎重に事業を構築してきたと感じます。ただ、競争が激化していく中で事業拡大を急ぎ過ぎると、安心・安全への配慮が後手に回ってしまいがちです。 スポットワークは、労働者供給に該当しかねないというパンドラの箱を考慮すると、懸念点がたくさんある状況で、加えて待機要員などと称して勤務条件の詳細が示されない、労働条件明示が不十分な求人が見られるといった綻びも見えてきています。 これらの状況からスポットワークは「グレーな制度」と批判する声もあり、こうした批判にきちんと答えていくことが重要になってきています。
川上敬太郎