世界中で大人気の2枚のアルバムを聴く ビリー・アイリッシュとデュア・リパ “聴かずに通り過ぎることのできない重要作”
ふたりの音楽が人々を惹きつける理由とは?
現代の音楽シーンを席捲する2人の若手アーティスト、ビリー・アイリッシュとデュア・リパ。彼女たちの音楽は、なぜここまで人々を惹きつけるのか? 【写真4枚】いま注目の現代の歌姫といえばこのふたり! ビリー・アイリッシュとデュア・リパのアルバルを聴く 2024年、ビリー・アイリッシュが3年振り、デュア・リパが4年振りに新作を発表した。どちらも5月のリリースだが、ビヨンセ、テイラー・スウィフトの新作と共に“聴かずに通り過ぎることのできない重要作”である故、改めて紹介しておきたい。尚、どちらも3作目となるアルバムだ。 ビリー・アイリッシュの衝撃的なデビュー・アルバムが出たのは2019年春のこと。太くて重い響きのベース音とウィスパー・ボイスの組み合わせ、猟奇的でショッキングなMVなど、誰にも似てない表現の仕方でZ世代のカリスマとなって評論家からも絶賛された。 その後、映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』主題歌や2ndアルバムにおける引き算の美学に貫かれた深遠たる表現を経て、新作『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』はある種のスタンダード感を有する落ち着いた内容となっている。 まだ22歳の若さだが、10代半ばから様々な視線と期待を向けられるポップ/芸能システムのど真ん中で自分らしくあろうと戦い、もがく姿も見せながら表現を続けてきた故、進化の速度も普通のレベルじゃないのだ。 落ち着いた内容と書いたが、保守的ということではもちろんない。例えば「L’AMOUR DE MA VIE」という曲は甘味ありのソウルバラードっぽく進んでいたのに、突然ハイパーなエレクトロニック・ポップになって聴き心地を反転させる。 そのように実兄のフィニアスが手掛けるサウンド・プロダクションはこれまで以上に二面性があり、ビリーのヴォーカルもダークさと深い優しさが入り混じるなど、表題通り、まさしくハードとソフトが絶妙な塩梅で同居。落ち着きのなかにある過激性と、そのアンビバレンスをそう表現してもいいかもしれない。 ラジカルな楽観主義 一方、デュア・リパの新作『ラジカル・オプティミズム』は、どこまでもきらびやかで、迷いのカケラもないダンス・アルバム。ディスコ・サウンドを今にアップデートして、伸びやかな歌声で弾けるように歌っている。 昔好きだったブラーなどブリットポップの雰囲気も取り入れたそうだが、もっと明るく吹っ切れていて、ラジカルな楽観主義というタイトルが実に相応しい。 世界は混乱し、分断しているが、悲観ではなく楽観で乗り越えるのだ、ダンスすることで乗り越えるのだという姿勢が清々しく、そうした共感を必ず集められるという自信がヴォーカルに漲っている。 偶然にも両者のジャケット及びアーティスト写真は水中にいるものとなったが、内省と深海が結びついたビリー、サメがいても冷静でいられるデュアと、そこも対照的で面白い。 文=内本順一(音楽ライター) BILLIE EILISH 米国ロサンゼルス在住の22歳。2020年の5部門受賞以降、グラミー賞の常連アーティストに。映画『バービー』のために書き下ろした「ホワット・ワズ・アイ・メイド・フォー?」は第81回ゴールデングローブ賞「最優秀オリジナル楽曲賞」、第66回グラミー賞「年間最優秀楽曲」、第96回アカデミー賞「歌曲賞」を受賞。新作『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』(ユニバーサル)について「今までで一番自分らしく、正直なもの」だと語っている。 DUA LIPA 英国ロンドン生まれの28歳。2015年にデビューし、2017年のシングル「New Rules」で世界的にブレイク。2020年の2ndアルバム『フューチャー・ノスタルジア』は第63回グラミー賞で「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム」を受賞した。映画『バービー』では主題歌「DanceThe Night」を歌い、映画本編にも出演。6月のグラストンベリー・フェスのパフォーマンスも話題に。新作『ラジカル・オプティミズム』(ワーナー)を携え、11月には来日公演が控える。 (ENGINE2024年9・10月号)
ENGINE編集部