頭のいい人が住宅ローンの「繰り上げ返済」も「変動→固定の借り換え」も絶対にしないワケ
住宅価格が高騰するなか、住宅ローンの金利が上昇し続けている。「今、家を買うべきか、そのまま賃貸がいいのか」、「変動から固定に住宅ローンを借り換えるべきか」といった相談が相次いでいるというのは、『マンガでわかる 不動産屋が絶対に教えてくれない「最高の家」の買い方』(扶桑社)の監修者で家と住宅ローンの専門家、千日太郎さん。これから金利上昇の局面で「やってはいけない」ことを教えてもらった。(取材・文/ ジャーナリスト 村田くみ) ● 慌てる人ほど失敗する、冷静な現状把握を 住宅ローンの固定金利が上がり続けている。6月大手銀行やネット銀行で住宅ローンの固定金利が引き上げられ、3メガバンクの10年固定型の基準金利は3.89%(平均)。一方、住宅ローン利用者の約7割が利用すると言われる変動金利が「いつ、どれくらい上がるのか」が大きな話題となっている。 「直近で住宅ローンを借りた人のおよそ7割を占める変動金利については、日本銀行(日銀)の政策金利(短期金利)の影響を受けます。短期金利は3月の金融政策決定会合(会合)でマイナス金利を解除した後は0~0.1%程度で据え置かれているので、変動金利は3メガバンクで平均0.39%と低金利を維持しています。今後、日銀が追加の金利の利上げに踏み切るかどうかがポイントになってきますが、急激に金利がはね上がることはないと思います。今、変動金利を借りている人は慌てて固定金利に借り換えたり、無理な繰り上げ返済などで手持ちの資産を目減りさせたりしないことです」(千日太郎さん) 日銀は6月14日の会合で、「無担保コール翌日物金利」(短期金利)を0~0.1%に誘導する事実上のゼロ金利政策を維持することを決めた。日銀の政策が今後の住宅ローンにどのような影響を及ぼすのだろうか。千日太郎さんは次のように分析する。
「日銀による金融正常化のプロセスでは、近い将来に追加利上げ(短期金利をあげる)を行うだろうと言われています。そうなったとしても、欧米のように短期で急激に金利を2~3%も上げるという話にはならないでしょう。多くの銀行は半年ごとに金利の見直しをしますが、上げたとしても1年間で0.25~0.5%だと言われていますので、まずご自身の住宅ローン残高に金利を0.25~0.5%プラスして毎月の返済と総支払額がいくら増えるのか計算して影響を把握することをお勧めしています。わたしが無料公開している『AI住宅ローンシミュレーター』アプリでは金利上昇したらローンの返済額がいくら上がるか、さらに年齢年収や所有資金等を入力すれば金利上昇に耐えうるかを診断できるようになっています。自分自身の条件に応じたリアルな影響がわかると、たいした金額ではないのであせる気持ちが落ち着いてきたという人も多いですね。現状を正しく認識することで、焦りによる誤った行動を防ぐことができます」 ● 金利が0.5%上がったら、ローンはどのくらい増える? 仮にローンの残債が2000万円のときに、金利が0.5%から1%に上がったら2160万880円から2265万4960円になり、支払総額は105万4080円も増える。 同じく、ローン残債が2000万円で返済期間が20年残っているときに、0.6%程度の変動金利から2%程度の固定金利に借り換えたとすると、諸経費を含めて総支払額は約300万円増える計算になる。 変動金利を借りている人は知っておきたい情報がある。それが「5年ルール」と「125%ルール」だ。 「5年ルールは、金利が上がったとしても、5年間はそれまで支払っていた元利均等返済額に据え置かれるというルールです。さらに、金利が上がってから5年間が経過した後に毎月の返済額を増やすときも、それまでに支払っていた元利均等毎月の返済額の1.25倍を上限とする「125%ルール」があります。 この2つのルールが適用される変動金利であれば、金利が上がってもすぐに毎月の返済額が増えないような仕組みになっています。ただしすべての銀行がこのルールを適用しているわけではないため、銀行の融資担当者に確認する必要があります」 例えば、毎月の返済額が10万円だとすると、金利が上昇したときの返済額は、5年間にわたり10万円のまま据え置かれる。内訳の利息の部分が増えて元本返済部分が減るため、このままでは予定どおりに完済できなくなる。そのため6年目から毎月返済額を増やすのだが、その上限は12万5000円になる計算だ。この12万5000円が5年間続くので、もし完済予定日にローン残高が残ってしまう場合には、最終日までに一括返済することになる点には注意が必要だ。