トランスジェンダーの「リアル」を伝える映画。「自分を隠して生きていた」と語る監督の軌跡
冊子の製作仲間と話すうちに持ち上がったのが、映画製作のアイデアだった。プロジェクトが始動したのは2022年6月のことだ。 ▽言葉のやいば、心に深い傷 2023年6月、映画は東京都内で初上映された。ちょうど同じ頃、LGBTなど性的少数者への理解増進法が施行された。理解を広める施策が進むと期待したが、言葉のやいばを向ける人は後を絶たず、多くの当事者たちが心に深い傷を負っている。 性的少数者は偏見や差別によって孤立し、追い詰められてしまう人も少なくない。河上さんの知人にも、自ら命を絶った人が複数いる。 「これまでの社会は、『普通』とされる多くの人たちと同じように生活できる環境を、性的少数者に用意してこなかった。『いない者』にした」。だからこそ思う。「理解増進では足りない。差別禁止をはっきり打ち出すべきだ」 ▽権利を与えるのではなく、返す 今年3月、河上さんはあるニュースに心を強く動かされた。タイの国会下院で「結婚平等法」が可決され、同性婚が認められる見通しとなった(その後、上院でも可決し、国王も承認)。記事に引用された下院・委員会委員長の言葉に、涙が止まらなくなった。
「この法律は、このコミュニティ(性的少数者)の人々に権利を与えるものではなく、権利を返すものだ」 抱えてきた葛藤がはっきりと言語化された。日本社会でも、「いない者」とされてきた人々にスポットライトを当て、権利を返していく動きが必要だ。 現在は2作目の映画を構想している。「映像作品などを通じて、当事者のことをもっと知ってほしい。その思いが広がり、社会の変化につながれば」 トランスジェンダー映画祭2024秋は9月27~30日、動画共有サイトVimeoで開催される。