トランスジェンダーの「リアル」を伝える映画。「自分を隠して生きていた」と語る監督の軌跡
生まれた時に割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダー。当事者や周囲の人々を描く作品を集めた「トランスジェンダー映画祭2024秋」が、9月27~30日にオンラインで開かれる。上映作品の一つが、複数の当事者らが製作した「鏡をのぞけば~押された背中~」だ。 【写真】「なかまはずれ」「ぼこぼこ」 園児(6)はつたないひらがなで、いじめの内容をメモに書いていた 家に帰ると母親に「女で生まれたかった」「1回死んで女になりたい」と泣いて訴えた
昨年6月以降、全国各地の学習会などで上映されてきた。交流サイト(SNS)でトランスジェンダーへの誹謗中傷が相次ぐ中で、「当事者のリアルな姿を伝えたい」と撮影された。 監督を務め、自身も出演した河上りささん(41)=兵庫県淡路市=は、「多様な性が当たり前の社会になってほしい」との願いを込めた。かつては「自分」を隠して生きていたという河上さん。製作までの軌跡を追った。(共同通信=小川美沙) ▽リアリティー 映画は30分の短編。舞台は、カフェに設けられた占いコーナーだ。ある客は占い師に「自分はトランス女性」だと打ち明ける―。リアリティーある作品で、周囲から理解されず、葛藤する当事者の苦悩を表現している。 今年6月、新潟市内のバーで開かれた上映会で、河上さんは参加者にこう呼びかけた。「実は(性的少数者は)身近にいることを忘れないでほしい」 ▽誰よりも性別にとらわれていた 河上さんは大阪府で生まれ、物心ついた頃から性別に違和感があった。18歳で働き始めたショーパブで、先輩から「どんなに装ってもしょせん、女じゃない。自覚しなさい」と言われた。受け入れられず、性別適合手術を受け、過去の自分を隠して生きてきた。
約5年前、友達との口論が転機になった。河上さんは、トランス女性が適合手術を受けることも、男性を好きになることも「当然」と考えていた。友達は衝突しながらも根気強く向き合い、性の在り方は多様だと教えてくれた。「性別にとらわれていたのは誰よりも私自身だった」 気づきは行動につながった。さまざまな生き方をありのままに伝えたいと、各地の当事者らを訪ね、動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信。いろんな人に出会い、語ることが「当たり前」になっていった。 ▽相次ぐヘイト、当事者のリアルな姿を 2018年、お茶の水女子大がトランス女性の受け入れを発表して以降、トランスジェンダーへの攻撃的な言説が顕著になった。SNSには誤解や偏見に満ちたヘイトの投稿が続いた。背景には、当事者のリアルな姿や、実際の生活を知る機会が少ない現状があるとみられる。 こうした流れの中、2021年、河上さんを始め、当事者らが冊子「トランスジェンダーのリアル」を作成した。希望する自治体や学校に配布している。河上さんは、夫と犬2匹との淡路島での穏やかな暮らしを手記にしてつづった。