NZ銃乱射テロ 日本は人ごとなのか?
対策が難しいローンウルフ型テロ
今回のテロ事件の最大の特徴は、犯人が犯行の一部始終を自ら撮影し、その生々しい状況をライブ配信でFacebookに流し続けたことでした。犯人の供述によれば、これは売名のためにやったことではないといいます。この方法は、イスラム過激派のそれとは大きく異なります。例えばイスラム過激派の自爆テロであれば、犯行前に実行者の姿をさらし、敵の治安・警察部隊に事前に特定される危険を冒すようなことはしません。事後に録画したものを犯行声明と一緒に公開するのが一般的です。 こうしたイスラム過激派のやり方よりも、考えようによっては、より若者が衝撃を受け、影響されやすいのは、ニュージーランドのやり方ではないでしょうか。わが国は武器規制が厳しく、外国から持ち込むことは極めて困難でしょうが、武器は銃器のみではありません。昨年6月、過激派組織「イスラム国」(IS)に関係するとみられるチュニジア人の男が「リシン」という生物兵器をつくった容疑で逮捕されました。犯人は欧州を攻撃しようと計画していたと供述しました。また同じく昨年8月、日本でも名古屋の大学生が強力な手製爆弾をつくった容疑で逮捕されましたが、公園で爆発実験をしていたことが分かっています。これらの武器も、人間を大量殺戮(さつりく)するだけの威力は十分にあります。 今回のニュージーランドでの事件は単独犯とみられ、いわゆるローンウルフ型のテロに位置づけられます。しかし、ローンウルフ型のテロは対策が取りにくく、治安機関にとっても悩みどころです。基本的には事前摘発がしにくいため、テロリストが奨励しているわけです。対策としては、周囲の気付き得る人たち(家族、友人など身近な人間)の情報提供だと考えられます。外国の場合だと通信傍受が最も効果を発揮しています。 開催まで500日を切った東京オリンピック、その後のパラリンピックの安全を確保するためにも、官民が協力して目配りし、不測の事態に陥らないよう注意するべきでしょう。 ----------------------------------------------- ■安部川元伸(あべかわ・もとのぶ) 神奈川県出身。1975年上智大学卒業後、76年に公安調査庁に入庁。本庁勤務時代は、主に国際渉外業務と国際テロを担当し、9.11米国同時多発テロ、北海道洞爺湖サミットの情報収集・分析業務で陣頭指揮を執った。07年から国際調査企画官、公安調査管理官、調査第二部第二課長、東北公安調査局長を歴任し、13年3月定年退職。16年から日本大学教授。著書「国際テロリズム101問」(立花書房)、同改訂、同第二版、「国際テロリズムハンドブック」(立花書房)、「国際テロリズム その戦術と実態から抑止まで」(原書房)