【2024年を振り返る・フランス編】「三国志」状態に陥ったフランス、マクロン大統領はフランスに何を残すのか?
■ マクロン大統領が掲げた外資誘致は成功したのか? 一方で、マクロン大統領が掲げた企業活動の活性化という点に関しては、特にその目玉政策であった外資誘致が成功したことは、統計の動きから明瞭に確認できる(図表2)。 具体的に、フランスの対内直接投資流入額は、オランド前大統領の任期中は平均で名目GDPの1.3%の規模だったが、マクロン大統領の1期目では2.0%に、また2期目では2.1%にそれぞれ拡大している(図表2)。マクロン大統領は国民議会選直前の5月にもベルサイユ宮殿で外資系企業の経営者を招くなど、投資誘致に注力していた。 【図表2 フランスの対内直接投資流入額】 こうした外資系企業による投資は、フランス国民の雇用と所得の増加につながる動きだが、一方でフランスから出て行く民族系企業もある。外資系企業のフランス進出がなければ民族系企業の国外転出で失われる雇用や所得をカバーできないが、民族系企業の国外転出の方が報道されやすく、外資誘致は国民の評価につながりにくい。 それに、これは汎ヨーロッパ的な現象であるが、右派の国民連合の台頭が物語るように、フランス国民は着実に保守化している。一般的に、保守化した国民は外資系企業を嫌う傾向が強い。つまり、マクロン大統領が外資系企業による投資が増えたことをアピールすればするほど、保守化したフランス国民が反発する構図がある。
■ もはや進まないフランス経済の構造改革 今のフランスが最優先すべきは、2025年予算を成立させることにほかならない。これまでは憲法49条3項に基づき、内閣が国民議会の採決を経ずに強制で成立させることができたが、バルニエ政権が内閣不信任決議を経て退陣に追い込まれたように、そうした強硬な手段はもう取れない。しかし予算が成立しなければ、経済運営が停滞する。 予算が成立しないままでは財政危機に陥る展開も意識されるため、さすがに2025年度予算がいつまでも成立しないということはないだろう。新政権の組閣に成功し、新年度予算が成立したとしても、国民議会の解散総選挙観測がくすぶるなど政局が極度に流動化しているため、マクロン大統領は安定した政権運営など望めない状況が続くことになる。 こうした状況下では、マクロン大統領が公約に掲げてきた経済の構造改革など進まない。改革が停滞したまま、マクロン大統領は2027年5月の任期満了を迎えるのではないか。このままだとマクロン大統領は、経済の構造改革を道半ばで放棄した一方で、政治に大混乱をもたらした「バルカン政治家」として後世に名を残すことになりかねない。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。 【土田陽介(つちだ・ようすけ)】 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。
土田 陽介