おさえ校だったのに…なぜ?中学受験で増え続ける“全落ち”の悲劇
中学受験ブームに首都圏の保護者たちが湧き立つなか、近年「全落ち」してしまう受験生が増えている。「全落ち」とは文字通り、受験したすべての学校に不合格となり、不本意ながら公立中学への進学を余儀なくされるケースだ。受験家庭にとって最も避けたい事態だろう。 なぜこのようなケースが増えているのか。背景には、受験者数の増加や入試形式の多様化など、さまざまな要因が絡んでいる。中学受験の赤本を出版している声の教育社の社長、後藤和浩さんは「全落ちには2つのパターンがある」と語る。 今回は全落ちが起こる背景と、それを防ぐための対策について詳しく伺った。 短期集中連載全3回の第1回目ーー。
「おさえ校」で相次ぐ不合格
近年、中学受験をするご家庭は年々増加傾向にあります。首都圏模試センターのデータを見ると、首都圏の中学受験率は16.62%(2020年度)から18.12%(2024年度)へと上昇しています。私立中学校が提供する質の高い教育や、優れた進学実績、さらにはコロナ禍での柔軟な対応といった魅力が広まった結果といえるでしょう。 受験者数の増加に伴い、受験倍率も上昇しています。その影響で、かつての「この偏差値の学校を第一志望にするなら、おさえ校はここ」という定番の併願パターンが成り立たなくなっているのです。 親世代の常識が通用しないどころか、受験生の兄・姉の頃の常識すら通用しづらくなっていると言えるでしょう。
合否が読みにくくなった後半日程
全落ちのパターンの一つは2月3日以降の後半日程の倍率上昇です。中学受験では、1月に埼玉県や千葉県の学校を練習として受け、2月1日に本命校を受験し、その後、2月2日~5日にかけて妥当校や抑え校(いわゆる滑り止め)を受験するのが一般的なパターンでした。 これまでであれば、前半日程で志望校に合格できなかった受験生は、後半日程では受験校の偏差値を下げて、確実に合格を取るのが定番でした。 しかし、中学受験人口の増加によって、今や後半日程は合格難易度が高く、合否も読みにくくなっています。実際に「おさえ校だから」と第一志望より偏差値10低い学校を受験したにも関わらず不合格になるといったケースが相次いでいます。 ここで重要なのは偏差値ではなく、倍率です。近年は後半日程で倍率が急上昇しているケースが数多く見られます。この倍率の急上昇が「全落ち」を発生させている一因です。 よく親御さんは「第一志望から偏差値を10下げたから大丈夫だろう」などと偏差値だけで判断しがちですが、偏差値に余裕があったとしても倍率が4倍を超えてくると「抑え校」というにはかなり危険水域であることは認識しておくべきでしょう。 そもそも後半日程は定員自体が少なく、合格者を1桁しか出さないという学校がザラにあります。さらに、受験人口の増加によって、第一志望校に不合格だった多くの受験生がそうした枠を奪いにきます。 その結果、見かけの偏差値以上に難易度が上がってしまい、「おさえ校」と思っていた学校に合格できないことが頻発しているのです。後半日程は、かつてのような合格しやすい学校を安心して受験できる日程ではなく、数の少ない枠をレベルの高いライバルと奪い合う日程になってしまいました。
後藤和浩