消費者の「不安」とどう向き合う? 風評被害を経験した水俣市の漁師が送る福島へのメッセージ #知り続ける
水俣は「不安」とどう向き合った?
風が強く、肌寒いこの日。水俣市の海辺には朝からたくさんの行列が出来ていた。地元の漁師がとった魚を販売する「漁師市」と呼ばれるイベントが目当てだ。「明日子どもたちが来るから食べさせたい」と、老若男女がたくさんの水俣産の魚を買っていく。イベントはものの数十分で完売御礼となる盛況ぶりだ。水俣の魚に対して不安の声がある一方で、理解が広がっているのも確かだ。 「理解してもらうためには、裏付けがあることが一番大切なんです」 杉本さんは、消費者の理解を広め、不安と向き合ってきた経緯をそう話す。「何もないところで安全だと言っても信用してもらえない。徹底したモニタリングを続けていくしかないんです。それしかないんです」水俣病の発生からもうすぐ70年目を迎えるが、水俣では今も魚の水銀調査が行われ、科学的な安全の裏付けをとり続けている。
課題も…「不安」の裏側にあるものとは?
福島中央テレビとYahoo!ニュースが共同で行ったアンケートでは、福島県の水産物に対し「(やや)不安に感じる」と答えた人にその理由を尋ねた。その結果は図の通り。回答者のうち、「安全に関する科学的な情報が不足している・信用できない」が約6割ちかくを占める結果となった。不安の払しょくにむけ、東京電力や水産庁は、海洋生物のモニタリング調査を行っているが、発信力の強化や信用性を高める努力が今以上に欠かせない結果ともいえる。 こうしたなか、不安払しょくに向けた自由記述のアンケートでは「何をしても安心しない人は安心しない」「他県産との数値を比較し発信する」「食べたい人だけが食べれば良い」「時間が経って不安感が薄れるのを待つしかない」「独立した検査機関が検査を行い公表する」といった意見も寄せられた。
経験者だから言える「福島の魚を食べたい」
風評を経験した杉本さんも、不安をゼロにするのは難しいと口にする。しかし、徹底したモニタリングで安全を積み上げていくことは、自信を持って魚を売る糧となり、不安を払しょくする土台になったと言う。 「不安だと感じるのは人それぞれの考えだから仕方がないですよ。ゼロにはできない。ただ歴史的にその不安の形は変わっていくだろうし、モニタリングを続けていけば自信を持って魚を売る力にもなる。調査をしていることで、安全なんだよと言えることは確かですよね」 水俣病で苦汁をなめ続けてきた杉本さんは、その経験から“福島の漁業が目指す方向性は間違っていない”と断言する。 「福島もいろんなデータを持ち寄って、モニタリングもやっていると思う。その経験、蓄積が不安の払しょくに繋がるので、ぜひやり続けていってほしい」 政府の対応には疑念があっても、福島の漁業の取り組みをみて、杉本さんは福島の海の復興に大きな期待を寄せる。 「(福島のいまを)知ることも大事。思いを寄せるってそういうことだと思うんですよね。福島の魚は応援したいし、食べたいです。ヒラメとかおいしそう!」 すこし日に焼けたその笑顔には、同じ漁師として、経験者として、福島の漁業を応援したいという杉本さんの強い思いが感じられた。