「脳梗塞になったら1秒でも早く治療を受けないと危険」…救急対応のエキスパートが明かす、その瞬間に「行くべき病院」と「受けるべき治療」
どこで診てもらうか、誰に診てもらうかで、文字通り運命が決まる。知っている人だけが幸せになれる、優れた医療の「条件」とはなにか―一流の医師たちが明かした。 【一覧】名医20人が自分で買って飲んでいる「市販薬」実名リストを公開! 特集『最高の病院 危ない病院』前回記事『膵臓がんは「なぜこんなに怖い」のか?「早期発見」のスペシャリストに聞く「一刻も早く見つけるために最適な検査方法」』よりつづく。
脳梗塞で最も重要なこと
「脳卒中、特に脳梗塞で最も重要なのは、1秒でも早く治療を始めることです。時間をかけて名医を探すより、とにかく即応してくれる医療機関にかかるほうがいい。 最近は救急車を呼んでもすぐに搬送先が見つからないことがありますから、あらかじめ脳梗塞の治療が得意な近くの病院を調べておいて、万が一のときはタクシーなどで向かう、という判断も時には必要になります」 こう語るのは、東京・板橋区にある高島平中央総合病院院長で、脳神経外科医の福島崇夫氏だ。 じつは、板橋区などの東京北部から埼玉県南部にかけての地域には、救急医療を担う病院が少ない。しかも、同病院は築52年を数える高島平団地の隣にあり、都内でも高齢者がとくに多く住む場所に立地している。 「東京都には、脳卒中の急患を24時間365日受け入れる体制を整えている認定病院があり、当院もそのひとつです。 夜中や休日だと、何か身体の異変を感じても『しばらくがまんして様子を見よう』と二の足を踏んでしまう患者さんも多いですが、ためらわず病院に行くようにしてほしいと思います」 中でも、高島平中央総合病院の強みは救急対応のスピードだ。脳梗塞を発症し、脳の血管が詰まると、わずか数分後には脳細胞が壊死しはじめる。梗塞の範囲は時間が経つにつれて広がり、手の施しようがなくなってしまう。
搬送後30分で手術スタート
そこで同院では、いつ何どきでも脳梗塞患者を救えるように、万全の体制を整えているという。 「当院では、脳梗塞の患者さんには医師、看護師、薬剤師、放射線技師、検査技師などからなるチームで対応します。さらに病院内での動線を工夫して、最短の時間で治療できるようにしています。 まず、救急からの連絡が入ると、その日の担当チームが招集されます。患者さんが到着したら、すぐに血液検査を行い、建物2階のMRI室に運ぶ。病院によっては、造影剤を使ってCTで検査をするところもありますが、私たちはMRIのほうが1回の検査で得られる情報が多いため、一刻を争う状況ではより有効だと考えています。 MRIで脳梗塞の診断が確定したら、血栓溶解療法(t-PA治療)やカテーテルによる血栓回収術を行うかどうかの判断を下します」 発症から4時間半以内なら、投薬だけで治療できるのがt-PA治療だ。'05年に認可されたアルテプラーゼという血栓を溶かすクスリを点滴し、血管を再開通させる。 「t-PAによる治療で大丈夫な場合は、病院内のSCU(ストローク・ケア・ユニット、脳卒中集中治療室)へ移動してもらい、1時間ほどの点滴を受けていただきます。 しかし、血栓が大きくt-PA治療では溶かせない場合や、発症から4時間半以上経過しているなどの場合、カテーテルで血栓を回収する手術を行います。そのときは、MRI室のすぐ隣にあるカテーテル検査室へ患者さんを移し、すぐに手術を始めます。時間との勝負なので、並行してチームスタッフが動き、手術の準備やご家族への説明を行います」 高島平中央総合病院では、患者が病院へ到着してから30~40分以内に、血栓回収術を始められる体制が整備されている。ただし、血栓回収術ができるのは一般的には発症から6~24時間以内だから、やはり一刻も早く病院に到着できるかどうかが、脳梗塞治療ではカギを握るといえるだろう。