数学アレルギーの元凶は公式丸暗記?克服のカギは「具体的なイメージ化」
数値よりも「問題の性質」の把握が大切
――「公式は抽象化したもの」というのはわかりやすいですね。確かに、公式が先行すると問題が何を示しているのか見えなくなりそうです。 小学校の算数では具体的な数字を計算しますが、数学になると抽象化されてxやyなどが出てきます。算数から数学へしっかりと橋渡しをするためにも、イメージ化する習慣をつけることは重要です。だから私が数学を教えるときは、「定性的に考えよう」とよく言います。 ――「定性的」とは数値・数量で表せないさまを指しますので、意外な印象です。数値化できる「定量的」ではないのですね。 はい。「定量的に考える」のは、言ってみればただの計算です。数学は、計算以前にその性質に着目することが大切なのです。例えば高校数学では、「点Pが∠APB=90°を満たしながら動くとき、点Pの軌跡を求めよ」といった問題がよく出ます。座標の中にxやyを置き、文字式を使って解くことももちろんできますが、∠APBの「性質」が円周角であることを知っていれば、点Pが円周上にあることがわかります。つまり、定性的に考えれば、計算を何一つしなくても、「線分ABを直径とした円を描けばいい」ということが導き出せるんですね。 ――定性的に理解することで、定量的な答えを導くスピードの向上も期待できそうです。 そういう効果はあると思います。大学入学共通テストの数学は、「問題量が多くて時間が足りない」とよく言われますが、すべて定量的に考えて計算で処理しようとするから足りなくなるという面もあるんです。定性的に捉えるクセをつけておくと、かなりショートカットできるので、私の塾では「性質」に着目してから解法を選択するように教えています。 ただ、そうした指導で伸びるのは、ある程度上位層の生徒たちです。「5割引からさらに2割引」のような問題がすぐ解けない中学生・高校生も実はかなり多く、そういう生徒は基本的な計算や図形の問題を反復的にこなすことが必要だと思います。 医学部に合格したある生徒は、計算ミスが多くてスピードも速くないのが悩みだったので、授業の冒頭で百ます計算をやるようにしました。中学生のときから高校3年生までずっと継続して取り組んだことで、数学に対する苦手意識が克服できたという例もあります。