人手不足のウソ?副業やスキマバイト…労働力の捉え方は「人手」から「時間」へ
「人手不足」に対する関心が高まっている。倒産、企業再編、コスト増など、人手不足に関連するトピックは多岐にわたり、報じられない日はないのではないかと感じるほどだ。特に、日本では人口減少や少子高齢化が進むなか、人手不足の進行は、ある種自明のこととして受け止められてきた。しかし、人口減少や少子高齢化は、そのまま就業者数の減少を意味するのだろうか。 【グラフ】人口は減っているのに、就業者数は増えている (今井 昭仁:パーソル総合研究所 研究員) 人口減少と就業者の関係を考えるために、直近10年間の総人口と就業者数の推移(図表1)を比較してみた。人口減少が就業者数の減少に結び付くならば、2本の線はいずれも右下がりになっているはずだが、そうはならず、就業者数はむしろ増加傾向にある。それはなぜか、図表1をもとに具体的に見てみよう。 まず、総人口から見ると、2014年に1億2700万人超だったのが、2023年に1億2400万人程度となり、10年の間におよそ300万人の減少を記録している。現在の大阪市の人口はおよそ270万人、これと同数程度の人口が10年間で消滅したことになる。 他方、就業者数は、新型コロナの影響で2019年から2020年にかけて減少した例外はあるものの、おおむね上昇トレンドにある。2014年の約6300万人から、2023年までに6700万人を超える水準に増加した。人口がおよそ300万人減った間に、就業者数はおよそ400万人増えたのだ。
■ 就業者数が増えたら、労働力不足は解決する? 足元の状況を見る限り、人口は減っているのに、就業者数が増えている。一見すると奇妙に映るが、そこには理由がある。 図表2は、過去10年の就業者数を男女別で示したものだ。折れ線にほとんど動きがないことからもわかるように、男性の就業者数は3700万人前後で安定的に推移してきた。その一方で2014年に2700万人ほどだった女性の就業者数は、2023年には3000万人を超えるまで増加してきた。 共働き夫婦の増加や出産・育児支援の充実により、結婚や出産が増える年代で就業者数が減る、いわゆる「M字カーブ」は解消に向かっていると言われる。女性の就業者数の増加は、M字カーブ解消の効果が顕著にあらわれたものと言えるだろう。 また、この10年間に就業者数を増やしたのは女性だけでなく、65歳以上のシニアも同様だ。図表3をもとに、シニアについても直近10年間の推移を見てみると、2014年に700万人に満たなかったシニア就業者数は、2023年に900万人を超えるまで増加している。 一般的に労働力としては15歳から64歳の生産年齢人口が念頭に置かれるケースが多いが、それより上のシニア世代で着実に就労者数が増えている。 さらに、女性やシニアだけでなく、外国人の就業者も着実に増加している。つまり、人口減少のなかでも、就業者数は増え続けているわけだ。 しかし、それでもなお、労働力不足が一層深刻になっているように感じられるのは、なぜだろうか。