人手不足のウソ?副業やスキマバイト…労働力の捉え方は「人手」から「時間」へ
■ 「人手」で捉えることは時代遅れに? 需要の影響などもあるが、労働力不足を考える上で見直したいのが「人手」という捉え方である。様々な報道や日常的に用いられる「人手」という言葉は、働く人の数を意味している。 この「人手」は一見して理解しやすいが、やや誤解を招く言葉でもある。労働者1人が働く時間はそれぞれ異なるからだ。 「人手」の観点からは、1日10時間働く人も、1日1時間働く人も、1人として数えることになる。10時間と1時間はやや極端かもしれないが、例えば一方がフルタイムで1日8時間、他方がパートタイムで1日4時間働くなら、1人が働いていることによってもたらされる労働力は異なってくる。 つまり、何人足りないかという「人手」ではなく、時間という観点をかけあわせた「労働投入量」(人手×労働時間)で捉えなければ、実際の労働力不足に迫ることは難しい。 実際、先に就業者数が増加傾向にあることを紹介した女性やシニアの労働時間は、全体平均よりも短い傾向にある。そのため、就業者、つまり人手が増えても、労働力不足は解決や緩和に至りにくい。 また、副業やスキマバイトなど様々な働き方が広がるなかで、今後、1人の労働者からもたらされる労働力にはさらに大きな差が生まれると考えられる。労働を「人手」として捉える弊害は、今後一層大きくなるだろう。
■ 2035年、労働力不足は1.85倍悪化 それでは、時間という観点をかけあわせた「労働投入量」(人手×労働時間)で捉えた時、労働力不足は今後どのような見通しとなっているのだろうか。 パーソル総合研究所と中央大学の共同研究によると、2023年は、1日あたりおよそ960万時間の労働力が不足していたのに対し、2035年は、1日あたり1775万時間の労働力が不足する見込みだ。 これまで、労働力不足は「何万人不足」と「人手」で語られることが多かったため、2023年の960万時間不足や2035年の1775万時間不足というように「時間」で捉えると、イメージがわきにくいかもしれない。しかし、この2つの数字を比べてみると、2035年の労働力不足は、2023年の1.85倍悪化する見通しであることが理解できる。 2023年、つまり昨年の時点で「新卒や中途採用に苦労した」、「シフトを埋めることができなかった」、「事業所の統廃合を検討した」といったことを経験している企業は、今後それ以上に労働力不足が深刻となっていくことが鮮明にイメージできるのではないだろうか。 こうした労働力不足に対して「どう備えていくか」という点もまた、時間の観点から捉えることで見えやすくなる。その一例がパートタイム就業者だ。 パートタイム就業者が106万円や130万円といった、いわゆる「年収の壁」の影響によって年間の労働時間を抑えることは、就業調整として知られている。試算すると、年収の壁を意識して就業調整をするパートタイム就業者は、2023年時点で464万人に上るとみられる。こうしたパートタイム就業者が、例えば月間10時間追加で働いたとしたら、「人手」という点では変わらないが、時間という点では労働力不足は確実に軽減される。 また、副業においても「人手」という観点から見ると、副業希望者が実際に副業をしても就業者が増えるわけではないが、労働時間は確実に増える。こうした例からも、「人手」ではなく労働力を「時間」の観点から捉えることの利点がわかる。