古屋兎丸、森田童子、濱口竜介…… カルチャーをdigる宝物のような時間 高妍(イラストレーター・漫画家)
濱口竜介と映画の「ドキュメンタリー感」
映画でいうと、濱口竜介監督の作品が大好き。特に『偶然と想像』や『ドライブ・マイ・カー』が素晴らしい。台湾の映画監督、エドワード・ヤン監督の『エドワード・ヤンの恋愛時代(原題『独立時代』)』が日本で上映されたときに濱口監督のトークを聴いたのですが、エドワード・ヤン作品にものすごく詳しかった。そんなところもすごく尊敬しているんです。 2021年の12月31日に台湾の映画館で濱口監督の『ハッピーアワー』を観たのですが、約5時間の映画が終わって映画館を出ると、ちょうど夜中12時を過ぎていて。それはとても特別な年越しの経験でした。 昔の日本映画も観ていて、最近だと松本俊夫監督の新宿のゲイバーを舞台にした『薔薇の葬列』という作品が面白かったです。なぜこの作品を観たかというと、ゲイボーイ役でピーターさんが出ていたから。以前寺山修司監督の『上海異人娼館 チャイナ・ドール』という映画を観たとき、あまりの美しさにピーターさんに惚れてしまったんです。それでピーターさんのWikipediaを見たら、デビュー作は『薔薇の葬列』とあったから観たんですよね。本当に綺麗です。フィクションなのに、途中で突然「あなたはなぜゲイボーイになったんですか?」って俳優さんにインタビューするドキュメンタリーパートが始まって! そこがすごく斬新でした。 その「ドキュメンタリー感」から、濱口監督の『親密さ』を思い浮かべました。『親密さ』では、映画の前半で何人かの舞台俳優の関係性が描かれ、後半では彼らが演じる舞台劇が映し出されるんです。是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』にもそのような感じのシーンがあります。初めて観たとき、映画というよりも本物のドキュメンタリーを観たような、とても衝撃的な感覚を味わったことを今でも鮮明に覚えています。これまでの映画鑑賞で味わったことのない新鮮な体験でした。 仕事が忙しいとあまり時間がとれないんですけど、もっといろいろな映画を観たいな。今は面白い映画を見るために生きているといってもいいくらいだから、仕事はほどほどにした方がいいのかもしれない。 高妍(ガオイェン・Gao Yan) 1996年、台北生まれ。2020年、村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』(文藝春秋)の装画と挿絵を担当。22年『緑の歌 -収集群風-』で漫画家デビュー。『月刊コミックビーム』で『隙間』を連載中。 X(旧Twitter)@_gao_yan Instagram@_gao_yan
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