なぜ日本政府はフィリピンに「中型巡視船」5隻を供与するのか? 中国対策のタテマエとホンネ、日本が期待する“3つの理由”とは
巡視船供与の真相
日本政府はフィリピンに巡視船の供与を約束した。全長97mと比較的大きく外洋行動にも対応する中型船を政府開発援助で5隻引き渡す予定である。 【画像】えっ…! これが自衛官の「年収」です(計7枚) 報道は日本の狙いを中国対策とフィリピン援助としている。具体的には 「中国による南シナ海支配の阻止とフィリピン海洋権益保護の支援」 といった形で説明している。 この見立は正しいのだろうか。 元3等海佐(中級幹部)の筆者(文谷数重、軍事ライター)は、それは建前にすぎないと考える。日本の本音は“南シナ海の泥沼化”だからである。まず、今の日本は中国による南シナ海支配の阻止を目指していない。また、フィリピン海洋権益の保護にも関心を向けていない。そして、なによりも日本の興味の焦点は 「中国弱体化」 だからである。
フィリピン援助の不確実性
巡視船供与の目的は南シナ海支配の阻止なのだろうか。 その理解は正しくはない。日本の立場からすれば中国に支配されても別段に困ることはないし、それは日本の援助では阻止は実現不能である。 なによりも南シナ海は重要ではない。日本とすれば“どうなっても構わない海”である。 そこには日本権益はない。領有を争う島しょや岩礁はなく漁業資源や海底資源の権益もない。その争いは人ごとであり西沙、南沙、中沙や資源をどの国が支配するかの影響はない。 海上輸送路としても迂回容易のため必須ではない。仮に南シナ海が通航不能となってもフィリピン東廻り航路で代替できる。インド洋からロンボク・マカッサル海峡を経由して太平洋に至る経路である。 迂回の準備も1970年代に済ませている。日本は援助として要所に灯台を設置している。そして実際に日本向けの大型タンカーはこの迂回航路を利用している。 よくある「生命線」との説明は事実に反している。安全保障や保守政治は「通航不能になれば日本は滅亡する」としているが荒唐無稽である。 加えて、中国の支配阻止も実現不可能である。阻止そのものは日本からすれば好ましい事態かもしれない。ただ、妨害による阻止は日本の力量を大きく超えている。 こと南シナ海では中国は絶対的な立場にある。領土問題を抱えるマレーシアやベトナムも中国と協調路線をとっている。台北政権も南シナ海問題に限っては利益を共通する立場にある。 今の日本にはそれを押しとどめる力はない。経済力でも軍事力でも劣勢な上、本土から南シナ海ははるかに遠い。 フィリピン援助による実現はまったく心もとない。同国には確とした中国政策はない。今は対立の雰囲気を出しているが、いつ融和路線に転じるかもわからない。