なぜ日本政府はフィリピンに「中型巡視船」5隻を供与するのか? 中国対策のタテマエとホンネ、日本が期待する“3つの理由”とは
フィリピンの軍事的な浅慮
また、フィリピンの海洋権益確保も目的ではない。 こちらも日本が関心を寄せる対象ではない。島や岩礁がどの国に属するか。領海や排他的経済水域が発生するかはどうでもよい。 どちらかといえば、フィリピン主張の実現は望まない立場である。 その領土主張は強引である。米西戦争(1898年、キューバとフィリピンを舞台に米国とスペインの間で戦われた戦争)以降、フィリピン北東領域は東経118度以東と決められている。それにもかかわらず境界西側にある南沙諸島や中沙諸島を自国領と主張している。 理由も1970年代に「無人島を発見した」であった。当然だが、南沙や中沙の発見はそこから数百年さかのぼる。その詳細も戦前海図の段階で逐一記載している。 細かいことをいえば、戦前日本の主張との相性も悪い。新南群島として南沙領有を宣言したが、理屈は「新南諸島は台湾に属する、台湾は日本に属する」である。それからすれば本土か台北政権であるかはともかく、南沙は中国に属する理屈になる。 その上、フィリピンによる権益確保には不安しかない。同国の警察や軍隊全体がそうであるが、武力行使に軽率である。 最近では2013年に台湾漁船に対し無差別射撃を加えて死者を出している。フィリピンの漁業取締船が思慮なく射撃を実施した結果である。 1982年には日本船も攻撃して重傷者を出した。領海通過中の化学タンカーに空軍機が銃爆撃を実施している。ゲリラへの補給の疑いと停船指示に従わないことが理由だが攻撃はやりすぎである。 どちらの件でも先々をよく考えていない。台湾と日本には対抗できる力はない。それにも関わらず浅慮から射撃を加えた。中央政府も即座に対応せず、謝罪なしで済ませようとした。当然ながら圧力を加えられて屈服している。 そして、フィリピンによる海洋権益確保の見込みも立たない。中国は圧倒的に強大であり、対してフィリピンは弱体に過ぎる。 その上で、フィリピンには覚悟があるかも疑問である。2012年の対立は中国のバナナ輸入規制で途端に腰砕けとなった。政治的に力を持つ大農園経営者たちの利益を優先した結果である。 そもそも、覚悟があれば巡視船や軍艦を援助頼みにしない。米国や日本からもらえるまで放置したりはしない。自力で入手する。 これはベトナムの覚悟とは大違いである。中国と対抗するために身銭を切っている。フィリピンよりも国内総生産(GDP)が少ない時代から潜水艦や戦闘機、巡視船を買っている。 そしてベトナム巡視船は引かなかった。2014年の沿岸部における紛争でも中国巡視船の体当たりをうけても対峙(たいじ)を続けた。 フィリピン巡視船は同じことができるのだろうか。バナナの禁輸で腰砕けとなってしまう政府の下でそのような戦いができるのだろうか。