なぜ日本政府はフィリピンに「中型巡視船」5隻を供与するのか? 中国対策のタテマエとホンネ、日本が期待する“3つの理由”とは
“南シナ海の泥沼化”という目的
日本の本意は海洋支配の阻止でもなければフィリピン海洋権益確保でもない。そういうことである。 それでは、日本は何を期待しているのだろうか。フィリピンに対し新造巡視船5隻の追加供与を約束し、並行して海保による訓練を提供したのはなぜだろうか。 冒頭のとおり“南シナ海の泥沼化”である。フィリピンに自信を持たせれば自然と中国とぶつかる。そうなれば中国は南シナ海問題で消耗する。直截(ちょくせつ)にいえばその事態を期待してのことである。 なによりも、日本は大きな利益を得られる。 ひとつめは、「対日圧力の低下」である。南シナ海での対立激化により中国の外交力や軍事力は南シナ海に吸い取られる。結果、東シナ海における中国の圧力は減少する。日中対立の強度を下げられるのである。 ふたつめは、「中国の歩み寄り」である。中国は紛争を南シナ海に限定したいと考える。そのため東シナ海で対峙する日本には融和的な態度をとる。また、フィリピンとの紛争においても対日接近を図る。日本による介入や援助強化を阻止するためである。 三つめは、「フィリピンの接近譲歩」である。中国と深刻な状態に陥った場合、フィリピンは米国に加えて日本にも助けを求める。その場合、日本は各種問題でフィリピンの譲歩も期待できる。 なお、ふたつめと三つめの利益は両立する。南シナ海問題において、最初に「力による現状変更は認められない」といえばフィリピンの歓心を買える。次に「日本は中比どちらにもくみしない」といえば両てんびんで中国の歓心も買える。最後に「両国には冷静な対応を望む」といえば、問題への巻き込まれ回避も実現するのである。
文谷数重(軍事ライター)