世界一の棋士を育てるガンオタ先生 ~囲碁棋士・藤沢一就~
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父は伝説の棋士・藤沢秀行。娘は最年少で女流タイトルを獲得した棋士・藤沢里菜。そんな2人に挟まれながら、世界一の棋士を育てるべく、日々子供たちと奮闘している棋士がいる。囲碁棋士・藤澤一就(ふじさわかずなり)だ。そのクールな外見からは想像がつかないが、実は熱狂的なガンダムオタクだ。自身の囲碁の番組では、囲碁とガンダムを絡めた解説をするなど、ユニークな一面も持つ。
父・藤沢秀行に決められた道
囲碁を本格的に始めたのは12歳の頃。それまではアマチュア10級くらいの実力しかなく、自分がプロになるなど思いもよらなかった。だが運命のときは突然やってくる。春休みに炬燵に入ってのんびりしていたところ、突然、父から「お前、プロになりたいだろう?」と言われた。わけがわからず押し黙っていると、「では明日から碁会所に通いなさい」と決定事項にされ、翌日から毎日碁会所に通うことになった。 「父はとにかく怖かったので、反発するなんて恐ろしくて考えもしませんでした。ただやり始めたら、不思議とプロにならなくてはいけない気持ちになってきて、翌年には五、六段に。さらに院生(※1)になって本格的にプロを目指し始めました」
ものすごい上達のスピード。元々努力する才能があったのだろうと想像するが、藤澤はそれを否定する。 「囲碁以外のことではそれほど頑張ったことはなかったんです。でも今が自分にとっての正念場だということは本能的に理解していて、院生になってからものすごく上達しました。入段したときも、本来はその年にプロになれる実力ではなかったのですが、たまたまプロ試験を受けるシード権を得ることができた。当時プロ試験は年に1回しかなかったので、これに落ちたら自分は1年間何をしたら良いかわからない、絶対にプロにならなくてはと懸命に努力しました」 結果はリーグ戦1位での合格。院生になってから3年でプロになるという、周囲も驚く結果だった。 囲碁は相手を意識しすぎると平常心で打てなくなると言われている。「この人は強い」と思うと、自分の判断よりも相手の判断を信用してしまい、本来の力が出せなくなるのだ。技術はもちろんだが、メンタルもとても大切なのである。藤澤の場合、急成長してプロ試験を受けたため、回りのライバルがどれだけ強いか知らなかった。相手がどんな人かもわからず、目の前の対局に一生懸命に取り組んだことで、プレッシャーがかからずに打つことができた。 息子のプロ試験合格に、父・秀行はとても喜んだ。修行時代も直接打ってもらうことはほとんどなかったが、棋譜を見てアドバイスしてもらうことはあり、厳しいながらも気にかけてくれていたようだったという。