タトゥーのある人は悪性リンパ腫リスクが上昇
体にタトゥー(入れ墨)を入れている人は、血液腫瘍の1つである悪性リンパ腫を発症するリスクが高いことが、スウェーデンで行われた研究で明らかになりました(*1)。 ●タトゥーのインクにはしばしば発がん性物質が含まれる 欧州ではタトゥー人口が20%を超えており、米国ではおおよそ30%と推定されています。日本でも、ファッションとしてタトゥーを入れている人を見かけるようになりました。しかし、タトゥーの長期的な安全性は明らかになっていません。 タトゥーに用いられるインクにはしばしば、発がん性のある化学物質(芳香族第一アミン、多環芳香族炭化水素、金属〔ヒ素、クロム、コバルト、鉛、ニッケルなど〕)が含まれています。また、タトゥーを入れるとインクが注入部位からリンパ節に移動することが示されており、リンパ節へのインクの沈着も見られています。リンパ節に存在する一部の細胞は、発がん性化学物質に対する感受性が高いことが知られています。リンパ節から全身性の免疫反応が誘導される可能性もあります。 そこでスウェーデンLund大学などの研究者たちは、悪性リンパ腫の発症率の世界的な上昇に、タトゥー人口の増加が関係しているのではないかと考えて、スウェーデン国民の情報を用いて、タトゥーと悪性リンパ腫発症との関係を検討するケースコントロール研究(*2)を行いました。
タトゥーありの人の悪性リンパ腫のリスクは1.2倍
スウェーデンのがん登録から、2007年から2017年までに悪性リンパ腫と診断されていた20~60歳のすべての患者を抽出しました。それぞれの患者について、年齢と性別が一致するコントロール(悪性リンパ腫を発症していない人)を、1人につき3人までスウェーデン住民の中から選出しました。対象者に対して2021年に調査を行い、アートメイクや、やけどの傷痕などを修正する医療タトゥーも含む、タトゥーの有無を確認しました。 分析対象としたのは、悪性リンパ腫の患者(ケース)2938人とコントロール8967人、計1万1905人です。ケースの331人(11%)は、2021年の時点で既に死亡していました。タトゥーの有無が確認できたのはケースの1392人とコントロールの4179人で、タトゥーを入れていた人の割合は、ケースが21%、コントロールは18%でした。初めてタトゥーを入れた年齢の中央値は、ケースが23歳、コントロールは22歳で、統計学的に有意な差はありませんでした。 必要な情報がそろっていたケースの1161人と、それぞれに対応するコントロール1997人を対象として、タトゥーなしのグループとタトゥーありのグループの悪性リンパ腫発症者の割合を比較した罹患率比(オッズ比)を推定しました。性別と年齢のみを考慮した分析では、タトゥーありのグループの悪性リンパ腫の罹患率比は1.24で、タトゥーとリンパ腫の関係は統計学的に有意になりました。続いて、学歴、喫煙習慣、婚姻の有無、世帯の可処分所得なども考慮したフル調整分析を行ったところ、罹患率比は1.21となり、わずかに有意になりませんでした。 ●タトゥーを入れてから2年未満の罹患率比は1.8倍 タトゥーを入れてからリンパ腫発症までの期間に基づいて患者を層別化し、フル調整分析したところ、リスクが最も高かったのは、最初のタトゥーを入れてから発症までが2年未満の場合で、罹患率比は1.81と有意差を示しました。続いて、初回のタトゥーから3年目から5年後までと、6年目から10年後までの期間を比較すると、いずれも差は見られませんでした。しかし、11年目以降は、タトゥーを入れたグループにおいてリンパ腫の発症が再び増加する傾向が見られました。 なお、タトゥー面積の大きさとリンパ腫発症の間には、有意な関係は認められませんでした。 今回の研究結果は、タトゥーと悪性リンパ腫の因果関係を証明するものではありませんが、タトゥーがある人は悪性リンパ腫を発症しやすい可能性が示されました。今後さらに研究を進める必要がありますが、タトゥーが長期的にも健康に悪影響を及ぼす危険性が示唆されたことは、ファッションの一部としてのタトゥーの流行に懸念を呈したと言えそうです。 *1 Nielsen C, et al. EClinicalMedicine. 2024 May 21:72:102649. *2 ケースコントロール研究:特定の集団を観察し、データを集めて分析する観察研究のうち、過去にさかのぼって特定の病気などの原因を探る手法。同じ集団の中から、その病気にかかった人を「ケース(症例)」、その病気にかかっていない人を「コントロール(対照)」として抽出し、比較を行う。症例対照研究とも呼ばれる。 (大西淳子=医学ジャーナリスト)