会社と社員が互いに「選び合う」、ソニーに今も息づく創業者・盛田昭夫の「独自の人材観」
■ ソニー流「管理しない人事」を支える充実の制度 ――困難な状況にありながらも、企業文化を守りながらソフトウエアの人材を充実させることができたのはなぜでしょうか。 片山 ポイントは、ソニーの企業文化を具現化した「支援する人事」を実行したことにあります。 一例として「社内募集制度」が挙げられます。これは創業者の一人である盛田昭夫氏が1966年に導入した制度で、2年以上在籍している従業員であれば、上司の許可なく希望する部署の公募にエントリーできる、というものです。応募した部署とマッチングが成立すれば、3カ月以内に異動が決定します。 また、2015年度に導入された「ジョブグレード制度」では、賃金における年功序列の要素を一切無くしています。能力や年次に対してではなく、仕事の役割に応じて等級がつけられる制度です。これにより、ブラウン管テレビや組み込みソフトのエンジニアは、自らの賃金を上げるためには、時代の変化に応じて自らのスキルをシフトさせる必要性が出てきます。スキルのシフトは間接的に雇用を守ることにも繋がりますから、ソニーらしい雇用の守り方と言えるでしょう。 他にも、社内兼業をすることでキャリアの幅を広げたり、他部署で自身の専門性を生かしたりできる「キャリアプラス制度」や、高評価を獲得した従業員が自ら他部署に異動できる「社内FA(フリーエージェント)制度」などがあります。 ――従業員の希望や意思を尊重する制度が多数用意されているのですね。 片山 配置転換は従業員の同意を得た上で実行しないと、「やりたい仕事ができない」「正当に評価されていない」など、モチベーション低下につながる恐れがあります。ソニーの人事制度は、いずれも会社の一方的な命令で動く人事ではなく、常に選択肢があり、従業員が自分の意思でチャレンジできる設計になっています。キャリアの自律を基本とするソニー流の人事異動は「管理しない人事」とも表現できます。 これらの人事施策の根底にあるのは、ソニーの従業員と会社が互いに「選び合い、応え合う」関係です。創業者の一人である盛田昭夫氏は、新入社員に対して「ソニーに入ったことをもし後悔することがあったら、すぐに会社を辞めたまえ。人生は一度しかないんだ。そして、本当にソニーで働くと決めた以上は、お互いに責任がある。あなたがたもいつか人生が終わるそのときに、ソニーで過ごして悔いはなかったとしてほしい」と伝え続けていました。 つまり、従業員は会社が自分にとって「成長や挑戦をする場としてふさわしいか」を問い続け、会社はそれに応える環境を用意する、という関係性です。 こうした関係性を踏まえて策定された人事施策だからこそ、ソニーにとって難しいチャレンジとなった「マインドのシフト」も乗り越えられたのだと考えています。