「眉山」や「牛殺し」をどう翻訳? “プロレス界のディズニーランド”WWE実況の裏にある当意即妙の秘話【清野茂樹アナ連載#13】
現地実況をお手本に…でも「眉山」はデトロイトで何と呼ぶ?
試合の中で繰り出される技の呼称についても、その考えは貫いています。極力、アメリカ流に表現する。具体的に言えば、日本のプロレス実況で言われがちな「雪崩式」や「低空式」「スワンダイブ式」などの表現は使いません。「選手」という言い方もしません。現地の実況をお手本にして、WWEという世界として表現をする。単なる翻訳に終わらず、そこに日本人向けのオリジナルな表現を目分量で加えることが私の役割だと思っています。 とはいえ、法則通りにいかないのが生モノの難しいところ。前回のSMACKDOWNで言えば、ケビン・オーエンズ、AJスタイルズ、レイ・ミステリオの3人が連なったジャーマンスープレックスについては「日本のリングでやったら眉山と呼ぶところですが、デトロイトでは何と呼ぶべきでしょうか?」と表現しました。眉山という呼称はコアなプロレスファンにとっては常識かもしれませんが、説明しようとすると、どうしてもWWEの世界からはみ出すことになります。だったら、疑問はそのまま口にしちゃえ、という判断です。 また、新日本プロレスで長く活躍したAJスタイルズは日本で覚えた牛殺しという技を使っています。現地でも「USHIGOROSHI !!」と実況されていますから、日本語実況でもそのままの呼称でよいと思います。しかし、この日は現地コメンテーターのウェイド・バレットが「BEAUTIFUL NECKBREAKER !!」と表現したのを聞いて咄嗟に「牛殺しのような形」と微調整しました。現地の表現を常に踏襲するとは限りません。例えば、WWEで「TSUNAMI」と呼ばれるブロンソン・リードの技を日本でそのまま口にするのはふさわしくないと考え、私は「330ポンドスプラッシュ」と言い換えています。 ずいぶん細かいことを書きましたが、最終的には好みの問題で、いちばん大切なのは、解説者と楽しくおしゃべりすることだと思っています。WWEは「レッスルマニア」前から18大会連続でチケットが完売するほどの人気であり、入門には今がベストタイミング。そして、数ある入り口のひとつで呼び込みをするのが、実況の仕事です。「実況と解説の会話を聞いていたら、ついつい長居しちゃいました」と言う人がいたら、最高の成果でしょう。日本のプロレスと地続きであって地続きでない世界最大級のテーマパーク。休園日はありませんので、まずは入り口までお越しください。 文/清野茂樹
ABEMA TIMES編集部