イタリア旅の思い出~陽気でやさしく人懐っこいロカーナの人々~|筆とまなざし#351
「Greenspit」完登のお祝い
「Greenspit」が登れ、明後日ロカーナを経つという日の夕方。アルピに一杯ひっかけに行った。生ビールのようなサーバーでついでくれる微発泡のロザートは妻のいちばんのお気に入りである。ロザートを一杯、プロセッコを一杯飲んでお店を出ると、カフェのオープンテラスに見覚えのある顔があった。それはチョビ髭のピエールだった。奥さんと娘さん、それにほかの友人たち(ロカーナの村長さんもいた)とみんなで賑やかに飲んでいるところだった。うれしくなって思わず駆け寄る。すかさず「なににする? 」と聞いてくれる。みんなが飲んでいたオレンジ色の液体を注文。スプリッツというイタリアではおなじみのカクテルだそうで、オレンジと僅かな苦味が爽やかである。プロセッコにカンパリと炭酸水を混ぜたところにスライスしたオレンジを入れたものだ。そうこうしていると、ピエールがコンティを呼んでくれ、水道工事のおじさんもやってきた。だれかが高級食材店でサラミや生ハムやチーズやグリッシーニを買ってきてくれ、コンティは両手に持った赤ワインを次々と注いでくれた。去年出会った人たちとようやく再会できた。みんな去年のことを懐かしがり、そして「Greenspit」完登のお祝いをしてくれた(「Greenspit」はクライミングをしないおじさんたちも知っているのだ)。 何杯赤ワインを飲んだかわからない。「次はSAKEを持って来ます! 」。そう約束し、千鳥足でアパートへ帰った。 目的のルートは登れた。けれど、またロカーナの人たちに会いに訪れたいと思う。一年に一度、いや数年に一度でも良い。この小さな村にはそう思わずにはいられない人たちがたくさんいる。 翌朝、何度も吐いて夕方までベッドに横になっていたことも、その後旅行中に一度も赤ワインを口にする気にはならなかったことも、いまとなってはいい思い出である。
PEAKS編集部