<春風を待つ―センバツ・宇治山田商>支える人々 未経験の硬球、怖さ一掃 中3生対象、鳥羽の野球教室実行委員長 /三重
◇悲願のOB出場「夢かなった」 宇治山田商の投手・中村帆高(2年)と外野手の阪口諒真(1年)は、鳥羽市で中学3年を対象に開催される野球教室「ギャザリング・イン・トバ」の出身だ。高校入学前に硬式球に慣れてもらうことが目的の教室で、実行委員長の宇治山田商野球部OB、寺本祐二さん(45)は「ギャザリングを巣立った子からいつか甲子園へ、という夢を2人がかなえてくれた」と甲子園球場でのスタンド応援を心待ちにしている。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 「硬式への怖さがあった」と阪口は振り返る。玉城町の中学校の部活で軟式野球を経験し、高校でも野球を続けたかった。だが、硬式の経験がほとんどなく球威に恐怖心があったという。「球が硬いので、死球などを想定し慣れておく必要があった。高校のスタートで遅れたくなかった。ギャザリングがなかったら適応に時間がかかったかもしれない」 ギャザリングは8~12月の土曜日、硬球を使った練習を行い、軟式から硬式へ「橋渡し」するのが目的だ。集まるのは、高校で硬式野球に挑戦したい中学生ばかり。周囲の志の高さが、阪口には刺激になったという。「他の中学の軟式の選手たちと練習できたのも、貴重な経験だった。一緒に練習を重ねたことで頑張れた」と語る。 寺本さんは鳥羽市の歯科医。2019年にギャザリングを始めた時から、OBの甲子園出場は悲願だった。1997年卒の元野球部員。高校1年で夏の三重大会決勝まで進んだが、海星に1―10で敗退。結局、甲子園の土は踏めなかった。今回のセンバツ出場は、「僕らが越えられなかった壁を、彼らが越えてくれた」と後輩に感謝する。 鳥羽市出身の中村は、中3の夏に身長約180センチの恵まれた体格だった。中村はギャザリングで、技術に限らず高校での野球との向き合い方も「予習できた」と言う。「寺本さんから『どんどん(積極的に)前に出ていった方がいい』と教えられた。山商は選手一人一人の発言を大事にしている。自分で考えて発言し、プレーするきっかけになった」と語る。 中学生の硬式野球クラブチームは、県内では中・北勢の人口が多い地域に集中している。南勢には硬式のチームは少ない。子どもから大人までファンの多い高校野球に、南勢地区出身の選手が増えれば、地域一体で応援することで地元の活力につなげられるのでは――という願いもある。 それだけに、地元出身の中村と阪口への期待は大きい。センバツの試合当日は、ギャザリングや地元の少年野球チームと共に甲子園で観戦するつもりだ。「高校入学前に甲子園で試合を観戦してもらったら(子どもたちの)テンションが上がるだろうな」と楽しみにする。【原諒馬】 〔三重版〕