メロディ・ガルドーが総括、「常にロマンチックで大胆不敵」な音楽人生を語る
米フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター、メロディ・ガルドー(Melody Gardot)が、自身の選曲による初のベスト・アルバム『The Essential Melody Gardot』をリリースした。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」 ベッドサイドのポータブル・マルチ・トラックで録音した6曲を『some lessons』という自主制作EPにして、ひっそりとリリースしたのが2005年。同じく自主制作による初アルバム『Worrisome Heat』をリリースしたのが2006年で、ヴァーヴ/ユニバーサルと契約して同作がメジャー流通されたのが2008年。そのメジャー・デビューから数えても16年と数カ月が経つわけで、ベスト・アルバムのリリースの頃合いとしては確かに悪くない。 「ユニバーサルからベスト・アルバムをリリースしようとリクエストされたの。ソングライターとしての私の旅はまだ終わっていなかったので、初めは驚いた。でもキャリアの中間点としてこのアルバムが出るのだと考えたら、それは素晴らしいことだなと思えた。私自身も、こういったアルバム(ベスト・アルバム)を通じてアーティストを発見することがよくあったし、このアルバムで初めて私を発見してくれる人もきっといるでしょうから」 2018年にリリースされた初めてのライブ・アルバム『Live in Europe』のブックレットには、メロディ・ガルドーからリスナーに向けて書かれた文章が載っており、そこにはこんな一文があった。 「いつか誰かが言っていました。“振り返るな。進む方向はそっちじゃないだろ”。素晴らしい考え方ですが、たまに振り返ってみないと、時が近づいていることに気づけません。皆、後ろを振り返ることをしないと、真っ直ぐ進むことができないのです」 今このタイミングで彼女がベスト・アルバムをリリースすることにも、これと同じような思いがあったのではないだろうか。そう考えて聞いてみると、彼女はこう言った。 「素敵な考え方ね。どうもありがとう。確かにそう。ときどき自分の作品を振り返り、これまでどんな方向に向かって歩いてきたかを確認することで、少なくとも今いるここが自分の到達点ではないのだということがわかる。もちろんこのアルバムに全てが詰まっているわけではないけど、長年に亘っていろんな旅を経てきたアーティストの世界を垣間見るのに役立つ作品だとは思う」 これまでに発表してきたスタジオ・アルバム6作品ーー『Worrisome Heart』(2008年)、『My One And Only Thrill』(2009年)、『The Absence』(2012年)、『Currency Of Man』(2015年)、『Sunset In The Blue』(2020年)、フィリップ・バーデン・パウエルとのデュオによる『Entre eux deux』(2022年)と、ライブ・アルバム1作品『Live in Europe』のなかから選曲されたCD2枚組。選曲は難しくなかったか、またどういったことを考慮して選曲したのか、聞いてみた。 「かなりスムーズな作業だった。振り返るなかで、隠れていたいくつかのトラックを見つけることができたのは良かったと思う。“Ain’t No Sunshine”(『My One And Only Thrill』来日記念エディションのみに収録されていた『Live in Europe』のアウトテイク)なんかは私自身ほとんど忘れていたトラックだったし」 「オーディエンスをムードと趣のある世界に連れていくレコードにしたいと考えていた。でもそれは容易いことではない。恐らくそれが、曲数の多くなった理由ね。曲から曲へと移る際の雰囲気を重視し、キーの並び方なんかも考慮しながら決めていったの。またレコード(アナログ盤)というフォーマットに相応しい曲の並びということも考えた。つまり、それぞれの面でそれぞれの雰囲気を醸し出せるように努めて曲順を決めたということ」 メロディ・ガルドーは自作自演のシンガーだが、過去にいくつかカバー曲を取り上げ、このベスト・アルバムにも「Over the Rainbow」「La Vie En Rose」「Moon River」といったスタンダードや、エルトン・ジョン「Love Song」、ビル・ウィザース「Ain’t No Sunshine」といったポップ/ソウルのカバーが収録されている。シンガー・ソングライターとしてというよりも、シンガーとしての私を感じてもらいたい。そういった思いの表れなのだろうか。 「それらの曲はほかの人が書いたものだけど、演奏しているときはまるで自分の曲であるかのように感じている。カバーに真剣に取り組むことで、アーティストはそれを自分のものにできると私は信じているの。自作曲かそうじゃないかに関わらず、私はただ芸術を創作できることに満足し、喜びを感じている」 また、『Live in Europe』収録の「Les etoiles」「Bas News」、『My One And Only Thrill』来日記念エディションのみに収録されていた「Ain’t No Sunshine」「Love Me Like A River Does」、それに未発表音源「La Llorna」と、生歌の迫力を伝えるライブ・テイクが5曲取り上げられたことも、このベスト・アルバムの奥行きに結びついている。ライブ活動に力を注いできたメロディ・ガルドーの魅力を知る上で、これらのテイクが収録されていてよかったと強く思えるものだ。 「ライブという、スタジオとは異なる環境で録音されたものには、それ特有の生々しさがある。録音環境の違いによって、同じ曲でも別のものとなり、私はそれを美しいと感じたの」