メロディ・ガルドーが総括、「常にロマンチックで大胆不敵」な音楽人生を語る
本人が答える「メロディ・ガルドーとは?」
このベスト・アルバムのなかで最も注目すべきは、2曲の未発表音源が収録されていることだ。CDのディスク2の初め(LPでは2枚目のA面1曲目)に収められているのは、亡きチャーリー・ヘイデンとの共演曲「First Song」。チャーリー・ヘイデンが作曲し、アビー・リンカーンが作詞をして歌った曲だ。ほかにもパット・メセニーら数組が録音した胸に染み入るこの曲は、チャーリー・ヘイデンが妻に捧げて作曲した曲でもある。 「ある日、私とチャーリーがスタジオ(ハリウッドのキャピトル・スタジオ)に一緒にいたとき、”この曲を歌ってみないか?”と彼に聞かれたの。私は“もちろん!”と答えた。彼はそのとき、自分の音楽を私とシェアしたかったんだと思うけど、それについて特に話し合うことはしなかったわ。私たちは何も言わずに、一緒に音楽の旅をした。とてもピュアな音楽だと私は思った」 「チャーリーは多くの人にとって、そして私にとっても、素晴らしい指導者であり教育者だった。一緒に時間を過ごす度に、音楽についての何かを学ぶことができた。彼がいなくて、本当に寂しいわ」 未発表音源のもうひとつは、最後を飾る「La Llorna」だ。切々と歌われるメキシコのバラードで、2019年、地中海に浮かぶマヨルカ島で行なわれたライブでの録音。彼女の歌がギターとチェロの伴奏と共に観客たちを魅了したことがよくわかる。 「私のお気に入りのフォークロア・ソング。美しいスペイン語に対するトリビュートの意味で歌った。感情を表現する方法のひとつとして様々な言語で歌えるというのは、私にとって楽しいこと。アルバムの最後にこれを入れたのは、一番相応しい場所だと思ったから」 全24曲の音楽の旅。そんなこのアルバムのブックレットには、『ジョン・コルトレーン「史上の愛」の真実』などの著作で知られるグラミー賞受賞作家/ジャーナリスト、アシュリー・カーンによるライナーノーツが付く。それは次のような書き出しで始まる。「メロディ・ガルドーとは一体何者で、彼女の音楽的アイデンティティをどう表現するのが一番良いだろうか。これは取り組むのが難しい質問だ。ある意味ではとてもシンプルに聞こえるが、別の意味ではそうではないからだ」。わかる。自分もときどきそう思う。こんなにも軽やかに歌い、こんなにも底の深さを感じさせる、そういうシンガーはほかにいないからだ。では彼女自身、メロディ・ガルドーとは一体どんなシンガーだと捉えているのだろうか。 「物語を語る声を持つひとりのコンポーザー/シンガー/ミュージシャン。薄暗く、ブルージーで、ジャズの色合いを持つ……。そして、常にロマンチックで、大胆不敵」 メロディ・ガルドーは19歳のとき、自転車で帰宅途中に信号を無視して飛び出してきたジープに轢かれ、瀕死の重傷を負った。骨盤が砕かれ、頭部の負傷で短期記憶障害に。それから1年を寝たきりで過ごしたが、集中治療で徐々に回復。だが光線・聴覚過敏症を患い、それは永久的な障害として残ることとなった(常にサングラスをしているのはそのためだ)。しかし彼女は早い段階で音楽療法が回復に最も効果的であることに気づき、「音楽には普遍的な力がある」ことを知った。やがて本格的にミュージシャンとしてのキャリアを歩み始め、デビューし、さまざまな国をツアーするようになり……そうして今日に至るまでの間、音楽は彼女のなかでどういうものであったのだろうか。最後にそれを聞いてみた。 「音楽は今でも私を養い、癒してくれる。音楽のない人生は想像ができない。そして音楽仲間やオーディエンスのみんなとそれをシェアできるのは素晴らしいことであり、そのことを幸福に感じる。だから音楽は祝福だと思う」
Junichi Uchimoto