ライブ配信に2000回以上「荒らし」連投、にじさんじ所属「ライバー」を活動休止に追い込んだ匿名投稿者の半生と後悔
●匿名加害者の生い立ち
今年2月、佐藤さんは取材場所の京都市内にやってきた。交通費を捻出する必要があり、障害者年金の支給直後の日取りが指定された。 「信心深い母親のもとで育った」という佐藤さんの生い立ちが語られた。 母親は6人の子どもたちには何より信仰心を優先させたという。 末っ子の佐藤さんに良いことがあれば「母親の私が祈って信心を深めたからだ」。 悪いことがあれば「お前の信心が足りないからだ。仏壇を拝みに行ってこい」。 佐藤さんはそうした日々を「人格否定で自己肯定感が育てられなかった」と振り返る。 一度だけ大学進学を相談したが、母親はにべもなく否定した。上の兄や姉がそうだったように、高校卒業後からコンビニなどで働き、手取り13万円を稼げば、そのうち12万円を母親に渡した。 そんな暮らしに苦悩しながらも、学校で相談できる相手はおらず、いつしかうつ病と診断されたという。
●凶器にしたのも救ってくれたのもインターネット
心のより所は、自室のPCで見るネット動画だけ。その共通の趣味を通じて知り合った友人から家出をすすめられたそうだ。 友人の住んでいた土地に流れ着いて10年、無職のままで6畳半暮らしの生活を送る。通院先からは休養を指示されている。 佐藤さんは「彼の一言がなければ確実に生きてなかった」というが、「家族の暴言が今も脳裏によぎり、夢にまで出てくる」。 そうすると、平静でいられなくなり、発作的に「ダメだ。価値がない」と自分を責めてしまうだけでなく、SNS(X)で繋がる知人にも被害妄想をぶつける。「そのたびに親交が途切れて後悔する」という。
●「やったのは100件の荒らしだけではない」
配信での「荒らし」をおこなったのも「衝動的だった」と説明した。 「配信者もリスナーもみんな不愉快になればいいんだとヤケを起こした。前科も前歴もないし、冷静な状態ならやらなかった。あんなことをしたのは最初で最後」 裁判の場で取り上げられた「荒らし」投稿は100件強だったが、 実際には同様の「荒らし」を2000件ほど投稿していたと明かす。 「それも私がやりました。配信者にブロックされたことがわかると、新たにアカウントを変更して、荒らしを続けました」 佐藤さんによると、「2日以上、起きている時間のエネルギーすべてを荒らしに使った。次第に、自分がヤバいことをしたと自覚していった」という。 当時は衝動的に荒らしをしていたというが、一方で「疑問系の投稿にすることで名誉毀損などのリスクは減らせるという気持ちがあった」「私自身がされて一番嫌なことを同じようにしたのではないか」と冷静に当時の状況を振り返る。 また、かつて、家族から受けてきた暴言がどんな名誉毀損や侮辱に当たるのか調べていたこともあったという。