〈鼠径ヘルニア〉になりやすい人の特徴は?初期症状を放置すると病状が進行する恐れが…|医師が解説
鼠径ヘルニアは初期症状を放置すると病状が進行する恐れがあります。医師が解説します。 〈写真〉鼠径ヘルニアになりやすい人の特徴は? ■鼠径ヘルニアとは? 鼠径(そけい)ヘルニアとは、鼠径部(足の付け根あたり)に生じるヘルニアの総称です。 一般的には、脱腸と呼ばれている病気であり、ヘルニアは体の組織や臓器が本来あるべき部位からはみ出した状態です。 鼠径ヘルニアには通常、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3種類が存在し、鼠径部のどの部分にヘルニアが発生するかによって、分類されています。 鼠径ヘルニアでは、内臓の脱出所見に伴って鼠径部に膨らみができて、鼠径部の違和感や不快感、痛みなどの症状が出現します。 立っているときや腹部に力を加えた際に、鼠径部に膨らみができ、不快感や違和感、あるいは痛みが出現しますが、横になると圧が低下して内容物が腹部内に自然に戻るので鼠径部の膨らみや違和感が消失するという症状は、鼠径ヘルニアに特徴的です。 鼠径ヘルニアは、内臓などの組織が腹圧などの影響で脱出することで鼠径部が膨らみ、時に飛び出した内臓が鼠径部に間隙にはまり込んで元に戻らなくなることがあります。 この状態を「ヘルニア嵌頓」と呼んでいて、腸閉塞や腸管壊死など合併症を起こすことがあるため一定の注意が必要です。 一般的に、腸閉塞では、口から摂取した食べ物や消化液の流れが、腸のなかで閉塞して滞ってしまうため、腹痛や嘔吐などの症状が現れます。 多くの場合は、重い荷物を持った際など腹圧がかかったときにヘルニア内容物が飛び出して、仰向けに安静にするとふくらみが引っ込みますが、放置するとヘルニア門が次第に大きくなっていき、内臓がはまりこんで元に戻らない状態となることが考えられます。 腸管などヘルニア内容物が嵌頓すると、稀に腸管を栄養する血流が途絶えて腸閉塞や腸の壊死が起こり、腹部違和感や嘔吐、発熱、鼠径部の強い痛みなどの症状が現れて、重症になると緊急手術が必要となります。 ■鼠径ヘルニアになりやすい人の特徴は? 鼠径ヘルニアでは、腸や腸を覆う脂肪組織、卵巣、膀胱などが腹壁に生じた欠損部を通して飛び出すことが知られていて、腹部に生じるヘルニアの約80%は鼠径ヘルニアと言われています。 鼠径ヘルニアの場合には、解剖学的な理由から、必然的に男性に多く発生しますし、大腿ヘルニアは女性に多く発症すると考えられています。 鼠径ヘルニアはあらゆる年齢で起こり得る病気ですが、子どもと高齢者に多くみられる傾向があり、特に男性に多く発生します。 鼠径ヘルニアの原因には、先天性(生まれつき)、および後天性(生まれた後に起こる)の要素が考えられていて、子どもに生じる鼠径ヘルニアのほとんどが先天性、大人に生じる鼠径ヘルニアの多くは加齢、あるいは生活習慣など後天性のファクターによって発症します。 子どもの鼠径ヘルニアの多くは生後1年以内に発症します。 特に、子どもの鼠径ヘルニアの場合は、腹膜の出っ張りである腹膜鞘状突起(胎児が生まれる前に、腹膜の一部が鼠径部に突出することで生じる小さな袋状の突起)という構造が鼠径部に残存していることが原因と考えられています。 この腹膜鞘状突起は、通常では出生前に自然に閉鎖しますが、出生後も閉鎖せずに残った状態で、過剰な腹圧などによって腹膜鞘状突起の内部に内臓が入り込むことで鼠径ヘルニアを発症すると言われています。 成人の鼠径ヘルニアの原因は、主に加齢に伴って腹壁が脆弱になることであり、腹壁部分が弱くなると咳嗽(がいそう:咳のこと)や重いものを持って腹部に圧力がかかることによって腹圧が上昇して内臓が飛び出すようになります。 ■まとめ 「鼠径ヘルニア」とは、鼠径部(足の付け根あたり)に生じるヘルニアの総称であり、通称「脱腸」とも呼ばれている病気で、ヘルニアは体の組織や臓器が本来あるべき部位からはみ出した状態です。 鼠径ヘルニアでは、腸や腸を覆う脂肪組織、卵巣、膀胱などが腹壁に生じた欠損部を通して飛び出すことが知られていて、腹部に生じるヘルニアの約80%は鼠径ヘルニアと言われています。 鼠径ヘルニアはお腹の中にある腹膜や腸の一部が鼠径部から出てくる病気で、初期症状であれば痛みなどはありませんが、初期症状を放置すると病状が進行する恐れがあります。 立位時や腹部に力が入って加圧された際に、鼠径部の皮膚の下から柔らかい腫れが出て、その腫大部を用手的に(手を使って)押さえて簡単に引っ込むようであれば初期症状と考えられます。 ところが、柔らかかった腫れが急に硬くなり、押さえても引っ込まなくなれば、嵌頓(かんとん)という状態を起こして、鼠径部の強い痛みや嘔吐症状などが出現し、緊急手術が必要になることもあります。 あらかじめ根治的に手術療法で鼠径ヘルニアを治しておくことが重要であり、嵌頓する前であれば日帰り手術などで対応できる専門施設もあるため、病状が進行して悪化することを予防する為に適切なタイミングで確実に治療することをお勧めします。 今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。 文/甲斐沼孟(医師)
甲斐沼 孟