障害者の再犯 深い孤立で刑務所への“無限ループ”【連載:京アニ事件ー傍聴席からの考察ー第3回】
36人が犠牲となった京都アニメーション放火殺人事件。殺人などの罪に問われている男の裁判は、争点となっている刑事責任能力の有無について本格的な審理が始まった。読売テレビでは、京都支局の3人の記者を中心にすべての審理を取材し、事件が社会に問いかけたことを連載記事にまとめている。3回目となる今回は、“障害者の再犯”について考える。(報告:尾木水紀 阿部頼我 藤枝望音) 【動画】青葉被告に死刑判決 完全責任能力ありと認める 36人殺害の京都アニメーション放火殺人事件 青葉真司被告は、京都アニメーションでの放火殺人事件の前にも2度逮捕されていて、2012年にはコンビニエンスストアでの強盗事件で懲役3年6月の実刑判決を受けている。この際、精神障害があると診断され、出所時には国の制度の対象となり、精神科への通院や訪問看護などの福祉サービスを受けていた。 ところが、事件の約4か月前には、こうした支援を拒絶するようになっていた。犯罪歴のある障害者が再び事件を起こさないために何が必要なのかを取材した。
■罪を犯した障害者の居場所
今回、大阪府のあるグループホームが私たちの取材を受け入れてくれた。ここでは、統合失調症や発達障害といった様々な障害のある利用者9人が生活し、職員が食事の準備や金銭管理など、利用者の身の回りのサポートを行っている。 実は9人の利用者は全員、罪を犯した過去がある。多いのは窃盗罪や詐欺罪(無銭飲食)など。この施設は犯罪歴のある障害者を出所後一時的に受け入れ、社会に復帰できるよう見守っているのだ。ただ、施設の冷蔵庫にはカギがかけられ、個人の持ちすべてに名前シールが貼られているなど特殊な状況も垣間見えた。
田村さん (※仮名)「窃盗と放火で(服役)。ここに来なかったらまた刑務所に入っていたと思います。」 知的障害を抱えている田村さん(仮名)は、幼少期に親元を離れ児童養護施設で育った。養護施設を出た後は、悪友との付き合いから逃れられずに窃盗などを繰り返す生活を送る。更生施設で暴力を振るわれるなどいじめを受けると、「イライラしたから」という理由で近所の家に干されていた洗濯物に火をつけた。 職員「最低3年、本当は5年、グループホームにいた方が良い。出て行った先でこの前みたいにストレスためて、なんかしたらどうなる?」 田村さん「捕まります」 職員「捕まったらどうなる?」 田村さん「刑務所行きです」 施設の取材をしていて目立ったのが、職員たちへの相談。絶えることなく、次から次へと利用者の誰かが職員に話しかけていた。責任者の福井政文さんは、彼らが納得できるまでとことん話を聞くことが必要だという。誰にも相談できず孤立を深めて罪を犯してきた背景から、社会復帰のためには密なコミュニケーションが何よりも大切なのだ。 グループホームの責任者 福井政文さん 「育ちやどういった罪を犯したのかなどを記した“フェイスシート”という書類があります。それを最初は読んでいたんですが、今では僕の中で完全に無視して、まず一人の人間だという見方をしています。利用者たちは障害者というよりもまず一人の人間。テクニックではなしに、本当に心から彼らの話を聞いて、支援する側としても真剣に話することによって、いい加減に扱われているという感覚はもってもらわないような支援を職員に心がけてもらっています。」