障害者の再犯 深い孤立で刑務所への“無限ループ”【連載:京アニ事件ー傍聴席からの考察ー第3回】
■必要なのは「周りから認められる経験」
大阪府堺市にある就労支援施設「ともにーしょうりんじ」では、犯罪歴のある障害を持つ人たちを多数受け入れている。20代の大山さん(仮名)は、21歳の時に特殊詐欺の受け子として逮捕され、少年刑務所で2年間を過ごしたのち、今年3月にこの施設にやってきた。施設ではタオルやシーツなどの洗濯を行っている。 大山さん 「1回事務所で思いっきり暴れた時に、思いっきり怒鳴り散らされたの覚えています。ワーって怒ってくれる人ってあんまりおれへんかったから、俺個人にこんなに怒ってくれるんやってめっちゃ感じました」 大山さんは幼い頃、母親の内縁の夫から激しい虐待を受け、中学卒業後に逃げるように実家を飛び出していた。 大山さん「どうせ家おっても殴られるだけ蹴られるだけ、飯も食わしてくれへんし、みんなでご飯食べに行こうって言っても僕だけ家置いていかれるから毎回。今自由に生きていることが幸せです。僕の今の目標は、ここで支援員をやることが一番の目標です」 かつては暴れたり、気分が落ち込んだりすることも少なくなかったというが、今では社会復帰に向け取り組んでいる。代表を務める石野英司さんは、罪を犯した障害者が社会復帰するには、“居場所”があるだけでは不十分で、“周りに認められる経験”が必要だと考えている。誰かから必要とされることで社会に存在する価値を感じられ、罪を犯さなくても生きていくことができるようになるという。
■再犯を防ぐために必要なこと
虐待やネグレクト、親との離別…不遇な成育環境が障害と相まって、犯罪へとつながっている現実があった。安全な居場所と周囲から認められる環境があれば、再犯から遠のくはずだが、取材を通して見えてきた課題も。 現状の制度では、支援がいずれ途切れてしまうのだ。「特別調整」の制度では、出所後から3年での社会復帰を想定している。グループホームはあくまで自立を目指すための一時的な居場所であり、終の棲家にはなりえない。彼らが一生をここで過ごすことは出来ないのだ。 グループホームの責任者 福井政文さん 「関わりの中で構築された信頼関係が、自立した後にも新たにすぐできると私は思えない。そう考えると、グループホームがキーステーションになって、利用者さんとホームを離れた後も関われるような何らかの仕組み・制度、それを考えてもらうことが、利用者の今後の人生を穏やかに、あるいは安定した生活につながる気がします」 これまで見捨てられてきた人たちに、「人とのつながり」「社会とのつながり」を持ってもらう。特別調整は、罪を犯した障害者の社会復帰への一歩を後押しする役割を果たしているといえる。 その一方で、現状の継続的な支援はグループホームなどの善意によって支えられている。地域社会を出た後にも人と関わっていける仕組みがあれば、本当の意味での「社会復帰」につながっていくのではないだろうか。