ダンカンが激白! たけしプロレス軍団〝両国暴動〟「うまくいったと震えましたよ」
【プロレス蔵出し写真館】「金返せ!」「やめろ!」コールが鳴りやまない観客席。あちこちからリングにあらゆる物が投げ込まれた。紙コップ、缶、ゴミ袋、座布団、おにぎり、みかん。取材していて身の危険を感じたのは、あのときだけ。 【写真】「ふざけるな!」サソリ固めを決める長州に容赦なくモノが投げ入れられた それが発生したのは、ちょうど今の時期。今から37年前の1987年(昭和62年)12月27日、両国国技館で起こった新日本プロレスの3大暴動事件の1つだ。 この日、メインイベントはアントニオ猪木のIWGPヘビー級王座に長州力が挑戦する3年ぶりの一騎打ち。セミは藤波辰巳(現・辰爾)&木村健吾(後の健悟)組VSマサ斎藤&TPG(たけしプロレス軍団)の刺客ビッグバン・ベイダー組だった。 藤波、木村が先にリングに上がりベイダーを待つ。斎藤がベイダーを従え入場。たけし軍団も続く。黒いコートを着込んだビートたけしを若手の船木優治(現・誠勝)がガードしていた。 超満員1万1090人のファンは「帰れ、帰れ!」の大合唱。「プロレスを甘く見るな」。怒声が飛んだ。 軍団のガダルカナル・タカがマイクで「ベイダーと戦うべき相手は猪木さんのはずです。約束を守ってください」と挑発。 さらにダンカンは観客に向かって「あんたらアントニオ猪木の逃げる姿を見に来たのか? あんたら猪木を卑怯者にしていいのか? やらせろー! やらせてくださーい! やらせてくれー!」と絶叫する(写真)。 長州がリングに上がった。斎藤は「猪木、この男(ベイダー)と戦え! 怖いか? 猪木、出てこーい!」と猪木を呼び込む。長州は「冗談じゃない。猪木と戦うのは俺だ」と斎藤に言い放つ。 ついに猪木がリングに登場。「よーし斎藤、受けてやるぜ。(観客に)どうですかー!」と問いかけた。そして、当初、発表されていた長州とのシングルマッチを中止し、ベイダーと対戦することを宣言すると、館内は騒然となった。 急きょ長州&斎藤組VS藤波&木村組のタッグマッチが組まれてゴングが鳴ると、突然の試合変更に納得がいかない観客席から、ブーイングと物が投げ入れられたのだった。試合は長州が木村にラリアートを見舞い6分30秒、体固めで決着した。 長州はマイクで「マサさん、なんで俺が代わらなきゃいけないんだ」と不満をぶつけ、「頼むから試合だけはやらせてくれ! お願いだから物は投げないでくれ。猪木はオレが倒す!」と観客に冷静さを呼び掛けた。 猪木はダブルヘッダーを強行し、長州を大流血に追い込み卍固めを決めると、見かねた馳浩が乱入して6分6秒、猪木が反則勝ち。2戦目のベイダー戦は一方的に攻められ2分49秒、パワースラムでKOされた。 「バカにするな!」。納得しない観客が再び物を投げ入れ器物を破損。一度引き揚げていた猪木が登場し、「ありがとう」と言ったことに観客はさらに激怒して、試合終了から1時間以上たっても暴動は収まらなかった。 さて、暴動を発生させた当事者の1人に話を聞いた。たけし軍団のダンカンだ。 ダンカンとタカは新日プロの事務所に挑戦状を持参。山本小鉄から「100年早いよ、バカ!」と罵倒されている。 ダンカンは「山本さん、エンターテイナーの世界で生きてますからね。オレが(中身が入ってない空の)コップを投げてくれっていうふうに目で合図したら、机に〝ドンッ〟て置いた。あうんの呼吸というか。(小鉄が入って来た時)おぉぉ、ずっと子供の時から見てる奴、入ってきたぞと思いましたね」と笑わせる。 そして「両国にたけしさんが来るか来ないか、我々も実際わからなかった。『(来てから)いいか。俺はなぁ、ほとんどしゃべらないからな。プロレス知らないのがバレるから』って(笑い)。昔の大木金太郎とか豊登だとか、その前の力道山とか、その世代のプロレスはすごい詳しいんですけどね」と明かすと、「(オレのマイクで)あれだけ文句言ってくれるっていうのは、(マイク)パフォーマンスがうまくいってるんだなぁって、震えましたよ」と語った。 「(今振り返ると)プロレスってスゲェんだなぁって。どんどんそういう気持ちが大きくなってますね。なぜかっていうと、本当に多くの人が僕の目の前に現れて『申し訳ない。あのとき罵声浴びせたんです、すいません』とか『俺がダンカン馬鹿野郎!〇ねって言いました』とかね。いまだにお互いが思いを共有できてるんだなぁって。すごい輪になって波紋がどんどん広がっていく。なんか俺らが戦ったんじゃないか? 戦ったような気もするなぁ、っていう錯覚にもなるぐらいですよ」。ダンカンは当時を振り返り、そうプロレスへのリスペクトを口にした(敬称略)。
木明勝義