本当に「第三者」? 企業不祥事でよく見る「第三者委員会」に潜む問題点
「法律家だからこそ」の問題にも目を向けるべき
日弁連のガイドラインが指し示す第三者委員会の在り方に、疑問点がないわけではありません。 特に「学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者が委員として加わることが望ましい場合も多い」と弁護士以外の専門家が加わる必要性に言及しているものの「委員である弁護士はこれらの有識者と協力して、多様な視点で調査をおこなう」と、あくまで弁護士主導であるべきと読み取れる点は、気になるところです。 もちろん、日弁連のガイドラインなのでこの点は致し方ないのかもしれません。しかし、企業で実務経験のない弁護士が主幹を務めることで、不十分な検証、あるいは適格性を欠く改善の提言になるリスクは考慮されていないといえるのではないでしょうか。 法律家主導の第三者委員会による失態例として、2015年に東芝の不正会計調査で立ち上がった第三者委員会が有名です。当時の委員会は東芝経営陣の人選により、元東京高等検察庁の検事長である弁護士を長とした法律家集団に、会計士を加えた「士業チーム」。電機業界に精通した、マネジメントの専門家不在というメンバー構成でした。 結果として、同時進行的に水面下で深刻化していた米子会社の買収問題には一切目を向けられず、ほどなくしてこの件がさらなる不祥事として公になる――という体たらくを示したのです。
識者が指摘する、第三者委員会の問題点
内部統制やガバナンスの研究者で『「第三者委員会」の欺瞞』(中央公論新社、2020年)の著者である八田進二氏は、第三者委員会の人選について「構成員として、当該不祥事に関する専門家をいれるべき」としています。さらに「検事である弁護士が第三者委員会に参画するケースが目立つが、犯人を特定して犯罪者を罰する検事とより良い内部統制実現に向けて活動する第三者委員会の原因究明では、調査のプロセスが異なる」と、東芝のようなケースをありがちな人選の誤りとして提示しています。 「企業が検事を委員として選びたい理由は、少なくとも経営サイドが刑事責任だけは問われないようにしたいという思惑があるから」とも八田氏は述べており、この点からも検事を入れることに否定的です。さらに、人選のプロセスは明確に公開するべきであり、業務執行に関わる者の人選への影響は排除すべきであると、日弁連のガイドラインの「盲点」ともいえる委員の人選について問題提起し、その基本的な在り方を提示しています。 「日弁連のガイドラインが発出されて以降、第三者委員会の認知度やステータスは高まったものの、不十分な内容の報告書の量産は続いてきた」と、報告内容の視点からも第三者委員会の在り方を問題視している点も注目です。この点に関しては、第三者委員会報告書の是正を促す一助とすべく、2014年に弁護士、学識経験者、ジャーナリストの委員9人からなる「第三者委員会報告書格付け委員会」が発足しました(八田氏もメンバーに名を連ねています)。 格付け委員会は不定期に開催しており、量産される第三者委員会報告書の中から「社会的価値や影響力が大きいと認められるもの」を選んで取り上げ、A~DとF(不合格)の5段階で評定・公開し、報告書の水準向上に向けて一石を投じています。 これまで27本の報告書が俎上に上がり、メンバーがそれぞれの視点で評価を付けてきました。27本・223評価票のうちA評価はわずか2票。反対にF(不合格)は60票もあり、半数以上にD以下の低評価が付けられているのには驚きます。八田氏が「大半の第三者員会は真実究明どころか、調査中にはメディアや世論などの追及から逃げる隠れみのとなり、不祥事への関与を疑われた人たちにほとぼりが冷めた頃に免罪符を発給しているのだ」と厳しい意見を出している点は痛快です。