【誤解その1】「自社都合中心主義」を改め「顧客中心主義」になろう!~「お客様は神様です」の呪い
「顧客中心主義」は「製品中心主義」への批判から生まれた
「顧客中心主義」は英語で「Customer Centricity」で、製品中心主義「Product Centricity」への批判から生まれました。アメリカでの中心的な論者は「One to Oneマーケティング」で一世を風靡したドン・ペパーズ&マーサ・ロジャース、ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授で、自らデータ分析サービス会社も経営するピーター・フェーダーなどがあげられます。 そのピーター・フェーダーが「製品中心」と「顧客中心」のアプローチに違いを解説した講演を、ウォートンスクールのYouTubeチャネルで視聴することが可能です。一般人にもわかりやすいレベルになっていますので、日本語字幕にすればおおむねその内容を理解できます。
ここでフェーダー教授が引用している製品中心と顧客中心の2つのアプローチの違いをまとめた表は邦題「顧客中心組織のマネジメント: 『製品中心企業』から『顧客中心企業』へ」(日本生産性本部)という書籍に掲載されており、以下に引用します。なお、この書籍はちょっと翻訳に癖がありますが、日本語で読める数少ない顧客中心主義の解説本でオススメです。
特に強調すべきと思われるこの2つのコンセプトの比較は、 ・戦略ゴール:「顧客にとってのベスト製品」対「顧客にとってのベストソリューション」 ・優先順位決定の鍵:「製品のポートフォリオ」対「顧客のポートフォリオ」 ・価格設定:「マーケットへ向けての価格」対「価値とリスクに対する価格」 ・評価基準:「新製品の数、他」対「顧客のライフタイムの価値、他」 などが、「製品中心主義」と「顧客中心主義」の違いをより鮮明にしていると言えます。 また、これと類似するものとしてマーケティング・ミックスの4Pと4Cの比較も象徴的です。 ・Product(製品)⇔ Customer Value(顧客にとっての価値) ・Price(価格)⇔ Cost(顧客が価値を入手するための費用) ・Place(流通)⇔ Convenience(顧客にとっての利便性) ・Promotion(広告、宣伝)⇔ Communication(顧客とブランドのコミュニケーション) STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3要素)と4Pを世に広めたコトラーは、間に4Cを挟んで、STP→4C→4Pの順番で検討することを推奨しています。 つまり、「顧客にどのような価値を提供するのか」を明確にした上で、製品やサービスを企画するということです。まさに顧客中心の考え方といえるでしょう。 「顧客中心主義」とは、企業が成長し存続し続けるための原動力は「製品」ではなく、「顧客(との関係構築)」であり、製品は顧客に提供する価値が形になったもので、それは顧客にとってソリューションとしての意味を持つという考え方です。 ですので、顧客中心のアプローチが上手くいったかどうかの尺度は、「顧客との中長期的な関係構築によって自社が得られた利益=顧客生涯価値」ということになるのです。 ◇ ◇ ◇ カタログ通販を中心としたダイレクトマーケティングでは当たり前のように使われてきた、顧客との中長期的な関係構築を通じて企業やブランドの成長を実現するための管理指標「LTV」(顧客生涯価値)。近年のEC化、D2Cなどの浸透で、一般的なマーケティングの世界でも「LTV経営」「次世代経営指標LTV」といったワードを頻繁に見かけるようになりました。 ただ、顧客中心主義に関する一般的な「誤解」は少なくありません。連載を通じて、その誤解を解きながら、戦略的かつ実践的に顧客中心主義は自組織にインストールするためのアプローチについて解説していきます。以上です。お楽しみに。