本郷和人『光る君へ』すれ違うまひろと道長。現実として二人が結ばれた<可能性>を考えてみたら意外な結論に…
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第23話は「雪の舞うころ」。「朱(浩歌さん)は三国(安井順平さん)を殺していない」と日本語で主張する周明(松下洸平さん)に驚くまひろと為時(岸谷五朗さん)。周明が連れてきた下人が脅されていたことを証言し――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「可能性」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし! 花山院に矢を放った伊周・隆家兄弟は「左遷」。左遷先で彼らがどんな扱いを受けたかというと… * * * * * * * ◆すれ違うまひろと道長 前回、東三条院詮子(吉田羊さん)と道長が立ち話をするシーンがありました。 一条天皇と中宮定子の関係について、詮子が「あんなに激しく求めあうふたりの気持ちが私にはわからない」と言うと、道長は「私には妻がふたりおりますが、心は違う女を求めています」と反応。この道長の発言を受けて、ネットはかなりの盛り上がりを見せていました。 しかし越前にいる「違う女」まひろのもとには、父・為時の友人で佐々木蔵之介さん演じる宣孝が。「都に戻って来い。わしの妻になれ」と宣孝がプロポーズしたところで、幕を閉じました。 すれ違う道長とまひろの関係はこの先どうなるのか、一視聴者として楽しみに感じる一方、そもそもながら、現実としてこの恋愛に成就するチャンスがどれほどあったのか。今回はそれを考えてみたいと思います。
◆取るに足る 中央公論新社の『ジェンダーレスの日本史』(2022)など、数々の快著で知られる大塚ひかりさんが、面白い指摘をされています。 古文には「数ならぬ身」(取るに足らない私)という言葉がしばしば出てくるが、これはもっぱら国司に任官する層の貴族が自己表現として用いる言葉である、というのです。 では物の数にしっかり入っている、「取るに足る」のはどういう層の人かというと、これは中央の官職を帯びている貴族たち。 中納言とか右大臣とか、中央の官職に任じている貴族はAクラス。 一方、越前守とか武蔵守など、県知事レベルの貴族はBクラス。 Bクラスの彼らは、実績を挙げればより豊かな国の国司に栄転することはあっても、中央政界入りはできません。AクラスとBクラスの間にはなかなかに高い壁が存在したのです。 ちなみに陰陽師などの下級官人は、その下のCクラス、ということになります。
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