ドロドロさもある「人間劇場」パリ・オペラ座の舞台裏ってどうなってるの?
パリのオペラ座をテーマとしたドキュメンタリーというから、まずは煌びやかなオペラの舞台が登場するのかと思いながら観ていると、その期待はすぐに裏切られた。オペラ座の屋根にフランス国旗が高々と掲げられ、その次に登場した場面は、なんとオペラ座上層部による新シーズン開幕に向けて開く記者会見の打ち合わせの様子だ。激論の中、会見で発表していいこと、いけないことなど、なんとも赤裸々に映し出されている。 夢のような舞台からは、なるべく想像したくない“お金”やヒエラルキー、覇権争いなどの話も出てくる。そう、映画『新世紀パリ・オペラ座』は絢爛豪華なオペラ座の表ではなく「舞台裏」を描いているのだ。監督は近年、スイス極右派指導者クリストフ・ブロッハーのドキュメンタリーなどを手掛けたジャン=ステファヌ・ブロン。同作は歴代パリ・オペラ座のドキュメンタリー中、最多の観客動員数記録を更新した。
オペラ座の舞台裏は「人間劇場」そのもの
ルイ14世の時代から350年以上にわたる伝統を守り続けてきた芸術の殿堂パリ・オペラ座。しかし、ここにも時代の波は容赦なく押し寄せ、新しい時代のニーズに合わせた変革が求められていた。2015年に就任したステファン・リスナー総裁は現代屈指の劇場支配人としての手腕を買われ、新世紀のオペラ座を託される。 撮影が行われた15年1月から16年7月の間、オペラ座は様々な出来事があった。史上最年少でバレエ団芸術監督に抜擢された女優ナタリー・ポートマンの夫としても注目されていたバンジャマン・ミルピエの電撃解任やカリスマ・エトワール、オレリー・デュポンの就任などの一大事から、公演2日前の主要キャストの降板や経営陣の苦悩など、舞台裏はまさに「人間劇場」そのものだ。 新シーズン幕開けにふさわしいオーディションの話題もある。難解なオペラとして知られる「モーゼとアロン」の雄牛として“本物の牛”の起用が決まった。「舞台の上で暴れたら?」不安も入り混じる選定場面はどことなくユーモラスだ。 そして、新総裁就任直後に稼働した若手育成プログラムのオーディションで選ばれたロシアの田舎町出身のバリトン歌手、ミハイル・ティモシェンコの存在がオペラ座の新しい風を感じさせてくれる。合格を電話で告げられるシーンから、デビューを夢見てパリでフランス語を学びながら、レッスンを受ける様子、スター歌手との対面で洗礼を受けて打ちひしがれるところなどは、まるで彼の目を通してオペラ歌手への道を体験をしているような気分になる。