花王やソニー、リコーなど236団体:「1.5℃目標」に整合する気候変動対策を日本政府に求める
記事のポイント①236団体が、「1.5℃目標」に整合する気候政策を日本政府に求めた②日本政府は11月25日、35年度に13年度比で「60%」削減の目標案を示した③一方、236団体は35年までに同年比「66%」以上の削減目標を求める
気候変動イニシアティブ(JCI)は、「1.5度目標と整合する野心的な2035年目標を日本政府に求める」メッセージを公表した。JCIは、気候変動対策に積極的に取り組む企業や団体などで構成するネットワークだ。花王やソニー、リコーなど236団体が賛同を表明している。メッセージは下記の通り。(オルタナ編集部) ■1.5度目標と整合する野心的な2035年目標を日本政府に求める 気候変動イニシアティブ(JCI)は、(中略)「1.5度目標と整合する野心的な2035年目標を日本政府に求める」メッセージを公表しました。 「2035年GHGs削減66%以上のNDCと、それを実現する第7次エネルギー基本計画を」、「今こそ、エネルギー効率改善と再生可能エネルギー導入加速で、化石燃料からの早期脱却を」が柱になっています。(中略) 末吉竹二郎・加藤茂夫JCI共同代表は、岸田総理大臣(当時)をはじめとする各省庁の大臣に対し、「国内の真摯な声を受け止め、先進国として誇れる野心的なNDCを」と題した書簡(中略)を送りました。 賛同企業の中には、東証プライム上場企業71社を含む、IT、機械、鉄鋼、電子・電気機器、製薬、通信、運輸、食品、小売、住宅・建築、土木、金融など広範な分野で日本を代表する多数の企業が含まれています。 また、積極的に気候変動対策を進める企業グループである日本気候リーダーズ・パートナーシップ、エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議も名を連ねました。 さらに、地方自治体、消費者団体、宗教団体、大学・研究機関、NGO/NPO、若者団体など、多様な非政府アクターが賛同しています。※賛同団体一覧 ■国内の真摯な声を受け止め、先進国として誇れる野心的なNDCを (気候変動イニシアティブ共同代表 末吉竹二郎・加藤茂夫) (前略)特筆すべきは、日本を代表する大手な企業を含め、236もの非政府アクターが、初めて自ら名称を明らかにした上で、2035年という年限を明示して石炭火力の廃止を求めていることです。 また、2035年の電力における再生可能エネルギー割合を65-80%に高めることが可能という数値もあげて太陽光発電、風力発電の導入加速化を求めていることにも大きな意義があります。 日本の気候政策の転換を求める国内のステークホルダーの声はティッピング・ポイントを迎えつつあるといっても決して過言ではありません。 我々JCI共同代表は、JCIメッセ―ジの公表にあたり、政府に対し、日本を代表するといっても良いJCIメンバーからの覚悟ある声に耳を傾けて気候政策を練り直し、日本が脱炭素への国際競争において、先頭グループと肩を並べて気候危機との闘いで大きな役割を果たすともに、この国の産業や経済の未来をも切り開くことができるようになることを切に願っています。 ■2024年を日本のエネルギー政策転換の年に 今年は、日本の近未来を左右する極めて重要な年です。なぜなら、第7次エネルギー基本計画と次期温室効果ガス削減目標(NDC)の策定が見込まれるからです。 世界が約束した1.5度目標の実現に向け、国際社会が脱炭素化への競争を激化させる中、日本が掲げる気候変動政策とエネルギー需給のあり方は、人々の健康や安全に強く影響することはもちろん、日本の産業や経済の未来、ひいては国際社会における競争力や立ち位置を方向付けます。 こうした状況のもと、気候変動イニシアティブ(JCI)に参加する日本の非政府アクターは、日本政府が次のことを目指し、今年を日本のエネルギー政策の転換点とすることを求めます。 ■2035年GHGs削減66%以上のNDCと、それを実現する第7次エネルギー基本計画を 地球沸騰化とも言われる深刻な状況下、国際社会は1.5度目標の実現に向けた取り組みを加速しています。 COP28では、2030年までに世界の再生可能エネルギー設備容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍にすることが約束され、今年2月、欧州委員会は2040年までに温室効果ガス(GHGs)を1990年比で90%削減することを勧告しました。 こうした中、日本の次期NDCと第7次エネルギー基本計画が1.5度目標に整合するものでなければ、日本は持続可能な成長を続け、国際競争力を発揮していくことはおろか、日本の産業界はバリューチェーンから外され、さらにその基盤となる人々の健康や安全、雇用を守ることすらできなくなることが強く懸念されます。 このような危機感から、私たちは日本政府に対し、次期NDCを少なくとも気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示した2035年までに世界全体でのGHGs削減2019年比60%に相当する2013年比66%以上にすることを求めます。 また、第7次エネルギー基本計画が、エネルギーの需要側や次世代を含む開かれた場で、科学的知見に裏付けられた幅広いレベルでの議論を経て、NDCと一体的に策定されることを強く求めます。 ■今こそ、エネルギー効率改善と再生可能エネルギー導入加速で、化石燃料からの早期脱却を 日本が2035年までにGHGsを2013年比66%以上削減するには、日本もG7のメンバーとして約束した2035年までに電力部門の全て、または大部分の脱炭素化という国際公約の達成が欠かせません。 そのためには、第7次エネルギー基本計画では、2035年に向けた石炭火力廃止の明確化と、それを実現するエネルギー効率改善と再生可能エネルギー導入の最大化が不可欠です。 また、日本はCOP28で化石燃料からの脱却に向けた取り組みを加速することに合意し、加えて、今年4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、石炭火力の廃止年限について2030年代前半とすることにも合意しています。 したがって、2035年までの石炭火力廃止と、2050年に向けたその他の化石燃料の可及的速やかな脱却は、日本が果たすべき国際公約であり、本提言の論拠となるものです。 様々な科学的根拠に基づく試算は、日本には再生可能エネルギー設備容量3倍を実現するに十分なポテンシャルがあり、2035年には電力における再生可能エネルギー割合を65-80%にすることが可能だと示しています。 これらの国際公約を着実に果たすために、すでに利用可能な技術を駆使した建物や製品開発などにおけるエネルギー効率の究極の改善と、日本のポテンシャルを最大限活かした太陽光や風力を中心とする再生可能エネルギー導入の加速化に向けた、早急な基盤づくりを日本政府に求めます。 ■脱炭素化を目指す世界の最前線に日本から参加する 私たちは、日本が持続可能な成長をしながら脱炭素化を実現するには、多様なステークホルダーが知見や経験を共有し、力を合わせることが必要だと考えています。 JCIは、国内外の非政府アクターや政府との協働を深め、1.5度目標の実現に貢献していきます。 <賛同団体からのコメント(50音順)> ■井田寛子 気象予報士・キャスター / 特定非営利活動法人気象キャスターネットワーク 理事長 2000年代以降、極端化している気象現象。 気温の上昇や極端な豪雨、強大化する台風等、異常気象を増加させている要因は地球温暖化であることは科学的に明らかとなっています。 この先カーボンニュートラルを達成しても、急激に異常気象が少なくなることはなく、今の気候よりさらに厳しい状況の中、適応して生きていかねばなりません。 少しずつでも生きやすい未来へ繋いで行くためには、1.5℃目標を可能な限り実現すること。そのためには、化石燃料からの脱却、再生可能エネルギーの導入の加速化は必須です。 この事実に目を背けず、政府を始めとするアクターの姿勢が積極的に前進していくことを期待しています。 ■呉文繍 代表取締役会長 兼 執行役員CEO 国際航業株式会社 国際航業は「空間情報で未来に引き継ぐ世界をつくる」ため、自社の脱炭素化と自治体・企業への脱炭素化に関する技術サービスの提供に注力しています。 しかし、脱炭素社会の実現には社会全体で取り組みを加速させる必要があります。 脱炭素に資する資機材や循環型燃料、再生可能エネルギーが適正価格で安定供給される社会システムの構築や、公共調達における脱炭素義務化など、加速に向けた政府の後押しに期待しています。 ■芹ケ野瑠奈 日本若者協議会 キャンペーナー 2050年は遠い未来のように感じるかもしれませんが、2002年生まれの私は2050年にはまだ48歳。そして、気候変動による悪影響は日本でも猛暑や大洪水など、既に起きています。 1.5度目標に整合した政治や経済などのあらゆる分野での変革は「いつか」始める話ではなく、今、始めなければいけません。そのために私はNDC78%の数値と再エネ比率の大幅な引き上げを要求します。 これまでのしがらみに囚われることなく、長期的な視点を持った将来世代が生きていける世界を作っていくための急速な政策の転換を求めます。 ■引間雅史 上智大学特任教授、学長特別顧問 学校法人上智学院理事(経営企画・資産運用・情報システム・IR担当) 上智大学は2030年までの中長期計画の中でカーボンニュートラルの達成をコミットしていますが、3つの側面から多層的にその取組みを進めています。 一つは大学の本業である教育・研究面で地球環境問題に関わる学融合型アプローチを企業とも連携しながら進めています。 二つ目は事業体として全学的な再生可能エネルギー電源への切り替えや学生を巻き込んだ3R活動などにより温室効果ガス排出削減の取組みを加速しています。 そして三番目は責任あるアセットオーナーとして脱炭素に繋がるサステナブル投資を推進しています。 1.5℃目標の実現には政府の野心的な政策による後押しと自治体・企業・投資家・NPO・NGO等各経済主体の協働が不可欠です。 上智大学は政府を含め、様々なステークホルダーとの連携を重視しつつ、脱炭素化の取組みを強化していきます。 ■一般社団法人みどりのドクターズ 「気候危機は命の危機」。化石燃料の燃焼による大気汚染により世界で年間500-800万人、日本では年間4-5万人が亡くなっています。 みどりのドクターズは、地球環境を守ることが、命と健康を守ることにつながることを伝え、行動しています。 1.5℃目標に整合するNDC、第7次エネルギー基本計画を通じて、化石燃料から脱却し、再生可能エネルギーを大幅に拡充することを「人々の健康を守る手段」として求めます。 <応援メッセージ (敬称略)> ■江守正多 東京大学未来ビジョン研究センター教授 現在、我々は、過去10万年で一番高温な地球の上で生きています。 昨年6月からの12ヵ月間で平均した世界平均気温は、産業革命前を基準に既に1.5度上昇を超えています。 これは一時的な上振れですが、このままではあと10年程度のうちに平均的にも1.5度上昇に達してしまいます。まず、この切迫感を共有したいです。 JCIのメッセージが参照している1.5度目標に整合するIPCCの削減ペースは世界全体のものですが、公平性の観点から、先進国である日本はこれよりももっと早いペースで削減すべきです。 それを考慮すると、日本の「2035年に2013年比66%削減」は1.5度目標との整合性から見て、本当は「甘い」目標であることを認識する必要があるでしょう。 社会の大きな変化が急激に、しかも公正に起きるためには、社会の様々なレベルで関係者の利害調整が行われるだけでなく、一見すると利害対立にみえる状況をwin-winに転換するような新しい発想の議論と取り組みが必要と思います。 高い目標を掲げることで、そのような変化が一気に加速することを願います。 ■ジュリア・スコルプスカ Powering Past Coal Alliance事務局長 1.5度の達成を可能にするには、先進国は2030年までに排出削減のない石炭火力発電を段階的に廃止する必要があります。2030年代前半に石炭火力発電を段階的に廃止するというG7の公約は、前向きな第一歩です。 日本にとって、石炭からクリーンエネルギーへの転換を加速することは、長期的な繁栄と安全を推進するチャンスであり、地域経済の力を活用し、世界のエネルギー転換のリーダーとしての日本の地位を高める方法です。 日本が石炭からクリーンエネルギーへの転換において、独自の課題と機会に直面していることを認識し、Powering Past Coal Allianceは、G7の他の国々を含む180を超える政府、自治体、企業メンバーと協力してきた経験を基に、日本とその非政府アクターと協働していきたいと考えています。 ※PPCA(Powering Past Coal Alliance:脱石炭国際連盟):英国政府とカナダ政府が主導し、日本を除くG7の6カ国など、世界60カ国を含む182の国や自治体、企業・組織が参加する国際的なイニシアティブ。 (オルタナ編集部が一部編集)