Z世代のメンタルヘルスに異変、最も幸福を感じない世代に ソーシャルメディアの影響も
社会的、技術的プレッシャー
ソーシャルメディアには、社会的なつながりを生み出す機能がある一方で、満たされない気持ちと社会的比較を加速させる一面がある。 2022年の調査では、ソーシャルメディアの利用増加と、若者のうつ病症状や孤独感との関係性が指摘されており、これはグローバルな傾向でもあることがわかっている。ネット上のつながりはあるものの、実際に他人と行動を共にするレジャーの時間や場所の移動が減り「人と人とのつながり」は減少、これによる不安が増強しているという点も指摘されている。コミュニティからの断絶は、幸福度にマイナスの影響を与えている。
その他の不安定要素
気候変動も実は若者の幸福度に影響を与えている。将来、この気候変動が続く状況で生きていく若者世代にとって、気候変動のじわじわとした恐怖や迫りつつある危機に対して「なすすべがないのでは?」といった絶望的な気持ちにさせる情報などが、メンタルにダメージを与えているというもの。 政治的不安もまた、紛争地域や周辺諸国の若者に、大きな不安を与えている。ユニセフの2023年のレポートでは、紛争地域周辺のシリアやイエメンでの若者の不安やうつのレベルが特に高いことがわかっている。
若者自身へ、そして企業や社会への提唱
こうした問題点を踏まえ、前述ウィムサット・チャイルズ氏は、より多くの幸福を感じてもらうため次のように若者へ提唱している。 まずは自身の価値観を定め、それに沿った行動をとること。自分の価値観に沿った行動をとることで幸福感が得られるからだ。そしてマイナスとなる他人との比較を認識して避け、プラスの比較を心掛けること。またストレスを軽減することに注力すること。また同時に、周囲の両親や近しい人たちがこの若者世代が直面する悩みやストレス、メンタルヘルスの問題について理解し、受け入れ、サポートを提供できるようにすることが必要と提案している。 世界経済フォーラムではより大規模に、世界的なメンタルヘルスのサポートを優先させることと、実世界での社会的つながりや帰属感を感じられるようにすること、ソーシャルメディアのプラットフォームによる再構築、未来のための教育を支持し、ファイナンシャル・リテラシーの向上や責任ある安全なソーシャルメディアの使用の教示をすることとを提案している。 ソーシャルメディアの普及によるメンタルヘルスへの影響は、これまでも様々な形で論議されている。ただしこれが、若者の幸福度の低下の原因であるとはどの専門家も断言できていない。 ブランチフラワー教授も、これは世界的な問題であると警鐘を鳴らしつつ、『若者の幸福度の低下を「測定」する段階はもう過ぎている。何が効果的なのか、試験的にでも始める必要があり、解決策を見出すべきだ』としている。 さらに世界経済フォーラムは、「若者の幸福度の低下という悲しむべき現実に直面し、世界は岐路に立たされている」と現状を位置付けている。今回発表されたレポートは、将来の世代のウェルビーイングを育むという我々の連帯責任へのリマインダーであり、将来の労働力である現在の若者の問題に社会や企業が今すぐ取り組むことによって、より明るい未来が開けると呼びかけている。 若者の幸福度の低下を他人事ととらえずに、社会全体で改善していくことは全世界での喫緊の課題であることは確かだ。
文:伊勢本ゆかり /編集:岡徳之(Livit)